自動運転で重要になる“目”の機能を担うのが、「LiDAR」です。LiDARはレーザーを照射して、離れた物体までの距離情報を3D画像として得る、距離センシング技術です。その方式は今まで、機械式が主流でした。実験車両の天井にクルクルと回っているのがそれで、小型化や軽量化、さらにはコストでも課題がありました。

もうひとつの方式として最近増えているのが、ソリッドステート式という方式で、半導体技術や光学技術で機構部を置き換えているのが特徴です。ただこちらは長距離性能と解像度に課題はありました。今回、東芝が開発した受光技術では、ソリッドステート式でも高解像度を実現しながら、従来の4倍にもなる200mもの長距離性能を実証しています。

もともと東芝では、2018年に機械式で200mの長距離測定性能を実現していましたが、今回の技術は機械式と同レベルの長距離性能を達成したことになります。

具体的な技術ですが、従来の機械式LiDARでは駆動部にモーターを使用した回転機構を持つため、小型化・軽量化・低コスト化が難しいという課題があります。これがモーターといった機械部品を使用しないソリッドステート式LiDARの開発が求められている理由です。ソリッドステート式では、回転機構がないので、全方位ではなくレーザーの照射角の範囲でのみセンシングが可能で検知領域は小さくなります。しかし、小型・軽量で壊れにくく、設置場所の自由度を広げられるといった利点があり、回転機構を必要としません。この結果、コストを下げることも可能です。しかし、ソリッドステート式は長距離性能と解像度の両立が課題となっていました。

東芝の技術で注目なのが、従来困難だったSiPMと呼ばれる超高感度受光デバイスの小型化を可能にしたことです。従来のSiPMでは、一度光を検出した受光セルは一定時間応答ができなくなるといった特性があって、すべての光を検出するためにはとても多くのセルを搭載することが必要でした。

SiPMの小型化 解説図

それをSiPM上に受光セルを再起動させるトランジスタを搭載することで、受光セルが応答できない時間を短縮することに成功しました。これにより、少ないセル数でも効率よく光を検出できるようになり、SiPMの大幅な小型化の実現につながりました。また、小型SiPMを用いることで、限られたスペースでも多数のSiPMを配列することができ、両立が難しかった高解像度化も実現しています。

高解像度化イメージ
開発したSiPM配列チップ

この技術は、市販のレンズと組み合わせて使用することができるので、汎用性が高いのも特徴で、乗用車、バス、作業車など、多様な車種への搭載が簡単にでき、今後、ドローンやロボットへの搭載も期待できるとしています。

試作したLiDAR
計測結果(画角7度×7度)