トヨタ THUMSイメージ

ひと口に安全なモビテリィ社会の実現と言っても、様々な分野や方向性があります。そのひとつが衝突事故で人体がどのような傷害を受けるかということです。障害物にぶつける衝突実験のシーンはよく見かけますが、従来から使われているのがダミー人形です。実際に衝突させて、衝撃をどれくらい受けているか、どのポイントが問題になるのかを見るために、テスト車両に乗せられて、日々実験に使われています。

シミュレーション技術が進化している現在においては、人体への傷害解析も、バーチャルで行われています。トヨタが2000年に世界初として、車両の安全技術の研究や開発を目的とした車両衝突時の全身の傷害が再現・解析可能なバーチャル人体モデルとして開発したのが、THUMS(サムス:Total HUman Model for Safety)です。

トヨタと豊田中央研究所が共同で開発したもので、現在は最新のVersion 6となり、骨格・脳・内臓、さらには筋肉を組み込むだけでなく、性別・年齢・体格の異なる様々なモデルが追加されています。

THUMS Version 4 乗員モデル
THUMS Version 4 乗員モデル
THUMS Version 4 歩行者モデル
THUMS Version 4 歩行者モデル

このTHUMSは、ダミー人形と比べて、人体の形状や強度を精密に再現しているため、衝突による傷害がより詳細に解析できることが特徴です。もちろん、あくまでもコンピューターでのシミュレーションなので、様々な衝突パターンを模した解析を繰り返し行うことができます。その結果、衝突実験に関係する開発期間や開発費を大幅に抑えることが可能としています。

トヨタ自動車では、2021年1月より、バーチャル人体モデル「THUMS」を無償で公開することを発表しています。無償公開(対象はVersion4・5・6)することで、さらに幅広いユーザーがTHUMSを活用して、クルマの安全性能向上に貢献することを目的としています。

現在すでにTHUMSは、100以上の国内・海外の自動車メーカーや部品メーカー、大学、研究機関などで、自動車の安全研究に使用されていて、シートベルトやエアバッグ、歩行者事故時の傷害を軽減する車両構造など、様々な安全技術の研究や開発に活用されています。また、自動車アセスメント機関が将来実施するバーチャルでの安全性能評価試験の導入計画においても、THUMSの活用が検討されています。

このようにTHUMSを無償公開することで、より多くの方にとって、クルマの安全研究に利用可能になるのはもちろんのこと、各ユーザーがTHUMSに改良を加え、その成果を他のユーザーと共有するなど、利便性が向上することも期待されています。

今回のTHUMSの無償公開について、先進技術開発カンパニー・フェローの葛巻清吾氏は「THUMSは2000年の誕生以来、改良を重ね、貪欲に人体構造の再現とバリエーションの充実に努めてきました。今やトヨタの安全技術・車両開発に不可欠な技術として確立されています。今回、THUMSの無償公開に踏み切ったのは、より多くのユーザーが活用することで、自動車業界全体でのクルマのさらなる安全性向上、そして交通事故死傷者ゼロの安全な社会の実現の一助になれば、との思いからです。自動運転車など将来のモビリティ社会を想定した開発の現場で広く活用いただけることを期待しています」とコメントしています。乗員を傷害から守ることは、メーカーや国などに関係なく、自動車産業、各地域社会だけでなく、世界の普遍的テーマです。この点でトヨタの今回の発表は、英断と言っていいでしょう。

THUMS バージョンごとの進化点
THUMS バージョンごとの進化点