塩原支所〜塩原温泉バスターミナル~湯っ歩の里(片道約1.8km)の区間で、2022年5月21日から6月5日まで実証実験が行われた

栃木県の那須塩原市の温泉街で、2022年5月21日から6月5日まで実証実験が行われた。この実証実験では、シンクトゥギャザーのグリーンスローモビリティeCOM-10(イーコムテン)を使用。乗車定員は16名だが、機器などで6席を使い、今回の乗車人数は10名。車いすでの乗降もできる。また、バッテリーの交換が容易にでき、EVの課題でもある充電時間や航続距離をクリアし使い勝手がいいそうだ。

自動運転システムは群馬大学発のベンチャー日本モビリティのものを使っている。車両にLiDAR、全方位カメラ、GNSSアンテナなどを搭載し、緊急時にはJRバス関東のドライバーが手動で介入していた。那須塩原の道路は道幅が狭く、路上駐車や追い抜きがあるので、実証実験としては難易度が高いと感じた。

かつてこの地域では観光遊覧馬車「トテ馬車」が活躍していた

トテ馬車を想起させるeCOM-10が那須塩原にぴったり

この自動運転バスの車両は、窓がなく開放的なところも特徴だ。5月末の那須塩原は、新緑の季節で豊富に流れる水の音や鳥のさえずりを楽しむことができた。

最高時速は19km。心地いい速さで走っていた。温泉街を周遊する”遊覧とて馬車”が昭和から最近まで走っていたようで、スローモビリティを受け入れやすい地域なのだそうだ。また新しいものに対して興味を持つ地域性や、トテ馬車に代わるアトラクションへの期待感からか、温泉街の住民も非常に協力的で、自動運転バスに乗車した人向けの割引サービスをしたり、自動運転バスについて立ち話をしているシーンによく遭遇した。

栃木ABCプロジェクトの自動運転実証実験は関心度が高いためか、県内に住む方々の参加も多い

注目度が高く絶えない乗客

自動運転バスに乗る人が絶えなかった。実証実験の情報を聞きつけてきた人、観光に訪れたまたま見つけて乗った人などもいた。eCOM-10の鮮やかな黄色、タイヤがたくさんついていて窓がない。そんな、かわいらしく乗ってみたいと思わせるデザインだったことも効果的だったのだろうか、自動運転バスを観光コンテンツの一部として受け入れて楽しんでいた。

自動運転バスに乗車した家族は「昔、トテ馬車に乗ったことがあり、それを思い出して楽しかった」と話してくれた。

2025年の本格実装に向けてノウハウの蓄積と共有を進める栃木県

栃木県の自動運転の取り組みは、全国的に珍しい事例だ。単発の実証実験ではなく本格実装を目的に長期的にやっているからだ。栃木県県土整備部交通政策課が中心となり、栃木県自動運転プロジェクト(Autonomous Bus Challenge Project)、通称ABCプロジェクトを進めている。

ABCプロジェクトは、自動運転バスと接続をする鉄道事業者や運行を担う可能性のあるバスやタクシー会社、栃木県に工場や研究所などのある自動車メーカー、大学から委員を選出し、栃木県無人自動運転移動サービス推進協議会を立ち上げている。

このプロジェクトでは、2025年度に県内の一部の路線バスにおいて自動運転バスが本格運行し多くの方が利用することを目指している。2020年度から2023年度の期間に実証実験を行う予定にしている。2023年度までに栃木県下の全自治体と交通事業者などに、自動運転バスを走らせるためのノウハウを蓄積して共有し、2024年度は本格実装に向けた準備期間とするためだ。

市町と連携し、さまざまな地域で多様な車両を使って実証

カーブの手前など見通しの悪い場所には、自動運転バスが来ることを知らせる掲示板が設置された

そして、県下の市町も自分事のように好意的だ。市町から自動運転バスを走らせたい地域を募り、中山間地域、観光地、市街地といったように、地域特性、課題、地理を考慮して、10カ所に実証実験場所を絞った。

その10カ所で、路線バスを自動運転バスに変えていくためにはどのような車両や運行が望ましいのか検討を重ねるため、多様な地域で多様な車両を使って、安全レベルを上げながら実証実験を実施してきた。これまで3回の実証実験を行っており、1回目は茂木町で日野自動車のリエッセ Ⅱ、2回目は小山市で日野自動車のポンチョ、3回目は壬生町でナビヤ・アルマを走らせている。

このように明確な実装年度を決めて、長期的かつ計画的に進めているところはほとんど聞いたことがない。筆者は栃木県の自動運転バスの導入の検討の方法は、全国のモデルになるのではないかと感じている。2025年度までに栃木県のどの地域でどんな自動車運転バスが走るのか楽しみだ。