2025年度の本格導入に向けて、県、市町、事業者が一体となって進めている地域がある。栃木県だ。どのような考え方なのか、ロードマップ、全体計画、組織などの詳細について、

栃木県県土整備部交通政策課 主査 安生真人氏、那須塩原市市民生活部生活課 課長 鈴木正宏氏、那須塩原市市民生活部生活課交通対策係 主査 山田慎太郎氏、那須塩原市市民生活部生活課交通対策係 主査 平野純氏に聞いた。

県下でのノウハウ共有のために

楠田 栃木県ABCプロジェクトとは何ですか?

栃木県 自動運転システム(Autonomous)の「A」、路線バス(Bus)の「B」、挑戦(Challenge)の「C」の頭文字からとっています。「無人自動運転移動サービス導入検証事業」のことで、県民が親しみやすいように命名しました。

栃木県では高齢者やインバウンドの公共交通の需要が伸びている一方で、民間バスの運転手不足や運行系統が(平成以降)約3割減少していて、民間バスが運行できない地域は、市町バスやデマンド交通がカバーしています。

いずれは自動運転の技術を使っていく必要があると思います。しかし、栃木県、県下の市町や事業者には、自動運転を走らせるノウハウがありませんでした。

また、県民の方に自動運転バスへの不安について伺うと、不安に思うことはないと回答された県民の方は4.4%で、ほとんどの方が何らかの不安を抱えていることに気づきました。この不安を解消するためには、自動運転バスに触れてもらうことが大切だと考えました。

そこで、2025年度に県内の一部の路線バスで本格運行をすることを目標に掲げて、自動運転バスを走らせるノウハウを蓄積したり、段階的にレベルアップを図りながら、県下の市町や事業者とそのノウハウを共有することにしたのです。事業期間は2020年度から2023年度で、2024年度は2025年度に本格運行するまでの準備の期間と考えています。

そして、ノウハウを共有するために、他の存在する自動運転バス導入マニュアルを参考にしながら、栃木県版の自動運転バスの導入マニュアルを作る予定にしています。

公共交通事業者や市町とともに

楠田 栃木県の考え方が非常にユニークでいいですね。単発の実証実験や本格実装をしているけれども課題を抱える地域が多いなか、実証実験を通じて、未熟な部分の多い自動運転の課題を整理したり、市町とともに導入するためのノウハウを蓄積したり、県民の社会受容性を高めたりしている地域はほとんどないと思います。推進体制を教えてください。

栃木県 ABCプロジェクトでは、実証実験の企画や検証などを行うための、産学官からなる推進協議会を立ち上げました。委員は、自動運転バスを運行することになる公共交通事業者(東日本旅客鉄道、東武鉄道、真岡鐡道、みちのりホールディングス)、その関係団体(栃木県バス協会、栃木県タクシー協会)、栃木県下に研究所や販売店などを置いている自動車関係企業(日産自動車、本田技研工業、NEZASホールディングス)に担っていただいています。会長は宇都宮大学地域デザイン科学部の阪田和哉准教授です。オブザーバーは、関東運輸局栃木運輸支局、関東地方整備局宇都宮国道事務所、栃木県土整備部道路保全課、栃木県警察本部交通部交通企画課です。

事務局は、栃木県県土整備部交通政策課です。土木のなかで、公共交通を見ているような組織になっているため、路車間連携など自動運転バスを走らせるために道路はどうあるといいのかという整理も一体的に取り組める体制になっています。

また、県下の市町に「市町意向調査」を実施して、自動運転バスを走らせてみたい地域を挙げてもらいました。県の事業ですが、自分事の事業として取り組んでおり、非常に協力的です。栃木県には25市町があるのですが、18市町から40カ所の提案がありました。そのなかから、①地域特性や課題に応じて、県内各地への展開可能性を考慮、②県内全域において機運醸成を図るため、地理的なバランス、PR効果、③交通事業者の意向などを踏まえた実現可能性を考慮して選定を行い、全体計画(ロードマップ)を策定しました。

多様な地域、多様な車両で試す

楠田 自動運転の実証実験には、1回目は茂木町で日野のリエッセⅡ、2回目は小山市で日野ポンチョ、3回目は壬生町でナビヤ・アルマと、さまざまな車両を使用されていますね。また、社会受容性に対する考え方もユニークで、実証実験の段階的なレベルアップも行われていると伺いました。

栃木県 路線バスを自動運転バスに変えていくためにはどのような車両や運行が望ましいのか検討を重ねるため、さまざまなタイプの車両を用いています。

アンケート結果では自動運転バスに不安を感じる県民も多いので、その不安をできるだけ減らせるようにしていきたいと思っています。

また、自動運転バスのレベルアップと言えば、レベル3やレベル4といったように数字に捉われがちですが、レベルアップはそれだけではありません。安全に運行をするためには、自動運転バスが苦手とする部分を路車間協調などで補っていく必要があり、「内容のレベルアップ」を図っていっています。

住民らとともに取り組んでいく

楠田 今回の那須塩原での実証実験に対して住民の方やバス事業者の反応はいかがでしょうか?

那須塩原市 はじめは、この実証実験が地元に受け入れてもらえるのか不安な部分がありました。しかし、地元には古くから観光客向けに「トテ馬車」が走っていた歴史や新しいものにも前向きな土地柄もあり、「環境に配慮し、ゆっくり走るグリーンスローモビリティ」は歓迎していただくことができました。

また、今回の実験にはJRバス関東㈱のドライバーにも御協力いただきました。

自動運転技術の進歩は、ドライバー不足の問題等の解決に役立つものと、共に公共交通を担う立場のものとして期待しているところです。また、そのためにも、今回のような取り組みを通じて、県や各交通事業者様と一緒に自動運転バスのノウハウを共有していくことが大切だと感じています。