新宿駅西口地下を発着点として実証実験を行いました

京王バスが既設のルートで運行

この実証実験は、「未来の東京」戦略において、2025年の無人自動運転による移動サービスの実現を政策目標として掲げる東京都のサポートによるもので、京王電鉄バスが「令和3年度西新宿エリアにおける自動運転移動サービス実現に向けた5Gを活用したサービスモデルの構築に関するプロジェクト」に採択された。実証実験は2022年1月8日から1月25日までの間で14日間実施された。

参画企業は、運行主体の京王電鉄バスと京王バス、自動運転の技術全般を担ったのは自動運転の社会実装を目指す群馬大学発ベンチャー日本モビリティ、モニター登録のシステム等、その他技術全般を担った京王電鉄。保険とリスクに関してあいおいニッセイ同和損害保険、京王観光、MS&ADインターリスク総研。通信ネットワークをソフトバンク、顔認証技術は日本コンピュータビジョン、デジタルマップはボールドライトだ。

通りかかった老若男女が写真撮影

GPSが届きづらいエリアでも自動走行できるシステムの開発に取り組んでいます

新宿駅西口に停車していた自動運転バスのまわりには、利用者のみならず、通りかかった若い男女や子ども連れが物珍しそうに写真を撮っていた。 

運行経路と使用するバス停は、自動運転のために特設したものではなく、都営バスと京王バスが共同運行している都庁循環(CH01)と同一経路だ。新宿駅西口(地下)を出発し、都庁第一本庁舎、都庁第二本庁舎、都議会議事堂を通って新宿駅西口(地下)に戻る。このエリアは、ほとんどGNSSが届かない。

実証実験に使われた車両は、日本モビリティが所有する日野自動車のポンチョロング1台だ。乗務員は警視庁のガイドラインに則った、京王バス社内での経験豊富な有資格者が本実証実験の乗務員として選抜され、日本モビリティのコースで事前に教育を受けて走らせていた。実際に乗車した際の乗務員はとても意欲に満ち溢れていた。

実証内容は、GNSSが届かない高層ビル群やトンネルなどの過酷な環境下でもLiDARを使って壁や縁石を認識して走行ができるようにするシステムの開発、顔認証の技術の実証などだ。

乗車前にLINEの「TAMa-GO」アカウントから、自分の顔写真を撮影し、アップロードして乗車登録を行った。新しくアプリをダウンロードしないので、登録する負担が少なかった。

ICカードや現金の要らない顔認証

LINEを活用して参加者を募集。顔認証による運賃収受サービスの検証も行われました

バスの前方扉から乗車すると顔認証機器が筆者の背丈より高い位置に設置してあった。他の人はマスクをつけた状態でもスムーズに認証を終えることができたようだが、筆者は認証に時間がかかってしまった。添乗員の話では、今回の実証実験では将来的に決済を行うことを想定して、誤認証を防ぐために顔認証の閾値を徐々に上げ、認証のハードルをあえて高くしているとのことだった。また、顔の特徴点を使って認識するため、髪の毛が眉毛にかかっていたりすると認識しにくく、マスクを外さないと認証が進まないケースもあるようだ。

GNSSが届かないエリアでLiDARを活用

新宿駅西口のロータリー付近は手動エリアに設定されているようだ。乗務員が自動運転の軌道にバスの車両を合わせて自動運転に切り替わった。すぐにGNSSが届かないトンネルがバスを待ち構えていた。トンネル内には左側に駐停車しているタクシー車両も目立った。トンネルの中ではレーダー光を照射して、跳ね返ってくるまでの時間を計測して、物体までの距離や方向を測定するLiDARを使って、縁石や壁を認識しながら走行させていた。バス車両のブレーキは、普通自動車と違い、内燃機関によって駆動している車両のブレーキなため、自動運転システムの調整が難しいようで、強くブレーキがかかったり、バス停より少し前に停まったりするシーンもあった。

まだまだ乗務員が介入することが多いと感じたが、自動運転バスの運行主体が、日ごろから新宿に路線バスを走らせている京王グループだったので、安心して試乗することができた。京王電鉄バス運輸営業部乗合事業担当課長の早田俊介氏は「路上駐車や白線が薄くなっているところが多く、民間企業だけでは対応ができないので、行政の支援が必要となる。顔認証は乗降数の多い公共交通に合せた味付けが必要で、スマートフォンやLINEが使えない乗客があってはいけないので、実用化の際にはその点も考えないといけない。自動運転バスが無人になると、トラブル対応などをどうするのかも考えなければ」と話す。

バス業界では乗務員不足が深刻化していている背景がある。粘り強く実証実験を続けて、実用化につなげてほしいと思った。