「視野障害と運転支援システム〜技術の現在地と未来〜」が2022年1月11日にオンライン開催されました。

自動運転技術は人間ができない領域をどのようにカバーしてくれるのか、現在普及が進む技術とそれ支える研究領域の一端が紹介されました。

登壇者は次の方々でした。

名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授 青木宏文氏

本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏

大阪大学 社会ソリューションイニシアティブ 特任准教授 小出直史氏

SIP自動運転サービス実装推進WG構成員/モータージャーナリスト 清水 和夫氏(モデレーター)

SIP自動運転 推進委員会構成員/モータージャーナリスト/児童ノンフィクション作家 岩貞 るみこ氏(司会進行)

オープニングでの清水氏のメッセージ「自分の弱点を知ることが安全運転の第一歩になる」とはどういうことなのか、興味深く視聴しました。

「高精度大型DS(ドライビング・シミュレータ)を用いた視野障害を有するドライバーの視認行動のモデル化と運転支援システムによる事故低減効果シミュレーション」 名古屋大学未来社会創造機構 特任教授 青木宏文 氏による基調講演

青木先生のお話しは、視野障害がある場合運転にどのような困難があるのかを客観的に調査をされた研究の紹介から始まりました。まるでゲームセンターのような、複数の大型画面で構成されたドライビングシミュレータでは、運転中に遭遇する危険な場面などをシナリオとして用意しており、臨場感たっぷりに再現させるとのこと。ここで見るのは、ハンドルを使うような運転テクニックではなく、視線の動きとのこと。適切な注意が払われているか調べることができるのだそうです。

高齢者の眼病といえば白内障は患者数が大変多い病気ですが、外科手術で治療可能なため、運転の障害としては非可逆的に進行する緑内障のほうが深刻であるとのこと。緑内障は視野の外側から進行するため自覚症状が乏しく、また、人間の目の機能が病気に気付きにくくしています。欠けができた視野を補うような補償行動を身につけることで運転寿命を延ばすことも可能です。目の使い方や注意の払い方を身につけるトレーニングもあります。

交差点のように、潜在的な危険が多い場所を安全に運転するためには、運連をサポートするシステムが有効です。センシングで危険を察知した際の警報音だけでも効果はありますが、自動ブレーキとの組み合わせで使うとより有効です。これからは、視野障害の有ある人だけでなく、すべてのドライバーに安全を上乗せする技術として、普及を願っています。

「先進運転支援システムの最新開発状況と今後の展開」本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本 洋一 氏による基調講演

杉本氏のお話しは、ホンダが掲げる「]Safety for Everyone 事故ゼロ社会」という壮大なビジョンの紹介から始まりました。

自動運転が身近になったのは最近のことに感じますが、ここへつながる技術開発は1970年代には始まっていたことなど、進化の過程が紹介され、その延長上により良いモビリティを目指していることが紹介されました。「自動運転は自ら人身事故を起こさないことを示す必要がある」という言葉が印象に残りました。

日本と米国の事故を分析したグラフで、事故の半分は既にある衝突回避などの支援機能でカバーされているというのは驚きでした。残り半分の事故を防ぐため、全方位の衝突軽減機能や、交差点での歩行者感知、非優先道路から優先道路へ行く際に横から自動車に突っ込まれる事故の回避など、危険をよける機能が予知のレベルを目指しているようにも見えました。また、運転者の急な体調不良や無謀運転にも対策を考えているとのことで、事故を起こす側にならない機能の開発にも希望を感じました。

AIとの協調、コーポラティブ・インテリジェンス(CI)は機械と人、機械と社会、機械と他の交通参加者が繋がり合う次のステップ。これからは運転者の確認不足をクルマが知らせてくれるようになるという映像も驚きでした。世界初のヒューマンエラーゼロを目指すAIの開発は進んでいるとのこと。講演の最後に杉本氏が語った「すべての人々に交通事故ゼロと自由に移動できるモビリティを提供したい」は、確実に前進していると感じました。

「視野障害と運転支援システム〜技術の現在地と未来〜」パネルディスカッション

大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任准教授 小出直史 氏を加えてのパネルディスカッション。モデレーターは清水和夫氏でした。

分野の異なる専門家の意見交換ということで、安全運転を多角的に捉える機会となりました。

中でも、ユーザーにとって“ややこしい技術”について、興味深い意見交換がありました。

「必ずしも、すべてのユーザーが各機能の名前や原理を理解している必要はないとい」というものでした。仕組みがわかっていなくても、危険な時にサポートが機能していれば役割を果たしているということです。しかし、例えば「運転速度が低いほうが安全だから」と速度超過を知らせるアラームを付けたとして、ユーザーにとって意味が理解されていなければ、機能をオフにされてしまい意味がなくなってしまう可能性もあります。高度なセンシングに頼りすぎず、「どのように注意を払うことで危険を回避できるかを知ったうえで、サポート機能を上手に使う」ことが真の安全運転とのお話しに、なるほどと思いました。

他にも、

・「リスクを受容する」とは

・シミュレータを活用した「安全な失敗体験」の可能性

・リスク回避の手段として運転の禁止をすることと、あらゆる人や状況に対する安全性能の向上のどちらも、究極の目的は同じである

・自動車単体だけではできない、インフラ全体の情報を統合した新しいナビゲーションシステムの研究

・すべてのクルマがレベル4を目指すべきか

・技術革新に偏らず、倫理学など社会全体を見るスコープの重要性

といった幅広い話題が並びました。

Q&Aセッション中にいただいた質問について、後日、登壇者より以下の回答をいただいています。

Q1  先ほど先進安全装置について、ユーザーにどのようにすれば分かり易く伝えられるか苦心しているとおっしゃっていましたが、現時点で(取説など)何か工夫していることはありますでしょうか?

A1   弊社の例でご紹介すると、HP上に安全運転支援システムのサイトを設けています。このサイトでは、アニメーションも使い、一般の方に理解しやすい表現を心掛けています。

例えば、アダプティブクルーズコントロール(ACC)は「ちょうどいい距離でついていきます。」、車線維持支援システムは「車線の真ん中を、走れるようにします」という感じです。

ご参考ですが、弊社のサイトはこちらです。 安全運転支援システム Honda SENSING | Honda公式サイト(杉本氏)

Q2   運転支援システムのパートにして、人の次は自転車を検知するシステムを開発中、と説明されてましたが、検知する対象は、広げ出したらキリがないと思います。どこまで広げることを現実的な目標点とされているのでしょうか。

A2  事故ゼロの実現に向けては、リアルワールドで発生している事故の分析結果を基に、支援する対象シーン、検知する対象を設定することになります。
基本的には、道路上に存在する可能性のある、いわゆる交通参加者はすべて対象としたいところですが、現在は歩行者、自転車、二輪車を対象としています。(杉本氏)

(富山佳奈利)