「運転免許と視野障害~有病者の運転と就労を考える」9/2オンラインセミナーが開催されました。
「眼にトラブルを持つ人は自動車の運転ができない」というのは本当でしょうか? 第2回視野障害について考えるSIP-adusウェビナーでは、目と運転の関係から有病者の運転と就労に切り込む内容でした。
●運転免許と視野障害〜有病者の運転と就労を考える 全編
●運転免許と視野障害〜有病者の運転と就労を考える オープニングセッション
●運転免許と視野障害〜有病者の運転と就労を考える たじみ岩瀬眼科 院長 岩瀬愛子氏による基調講演
●運転免許と視野障害〜有病者の運転と就労を考える 企業の対応例/質疑応答
■「見える」を見直す
「目が見える」状態とは、どのような時かを考えたことはありますか? 眼球や網膜など外からの光を受け取る部分に異常がなく、視神経から脳へ正しく情報が伝わり、脳で適切に認識される。この流れがスムーズなときが「見えている」状態です。経路の途中にトラブルが生じると、「見えない」や「見えにくい」状態になります。
自動車を運転する際には、目からの情報を正しく認知、判断し、ハンドルやブレーキなどを正確に操作できることが必要です。
日本では運転免許の取得や更新の際に、視力検査が行われています。その際に測るのは「中心視力」と呼ばれる、網膜の中心点での見え方です。海外では視力のほか、視野を重視した基準が設けられています。
視野にはトラブルが生じても自覚しにくいという特徴があります。片方の目の視野に欠損が起こっても、もう片方の目からの情報でカバーされるため、視界の中に異常を感じることはないのです。実際には目からの情報に欠落が起きているため、あるはずのものに気付かない、信号や交通標識の見落としなどが起こることがあります。
■視野障害の原因と発見のタイミング
視野障害はどのようなタイミングで発見されるのか。多いのは健康診断の眼底検査などで異常が見つかり、眼科で検査を受けて判明するケースです。糖尿病網膜症などは、内科から紹介の場合もあります。潜在的な患者数が多いものとしては緑内障が挙げられます。
残念なことに、眼底検査は健康診断の基本項目から外れています。目の健康について心配がある方、血縁者に緑内障と診断された方がいる方などは、積極的に眼科での検査を検討してください。緑内障は進行速度が遅い場合が多く、進行を遅らせる薬もあります。早期発見・早期治療で運転寿命を延ばすことが可能です。
■専用ドライビングシミュレータでの気づき
西葛西・井上眼科病院では2019年7月より運転外来を設置し、ドライビングシミュレータを用いて視野欠損が運転に及ぼす影響を調査してきました。國松志保副院長によると、「視野欠損があっても一般道を事故もなく運転されている人は多く、必ずしも事故を起こすわけではありません。反対に、視野や視力に問題がなくても事故を繰り返す人もいます」とのこと。事故を起こさないためには適切な目配り、気配りが重要なので、視野欠損の自覚あるかたは独自の工夫で安全運転を続けられているそうです。視野欠損がない方でも、目線の配り方が上手にできないなど、視力検査ではわからない問題も見つかります。そのような場合は訓練で目の使い方を学ぶこともできるそうです。
■職業ドライバーと視野障害
視野障害があると、トラックやタクシーなど運転を職業とする場合、本人にとっては職を失うか心配が、雇用主にとっては将来事故を起こすかもしれない不安の種となります。緑内障と診断が下ると、その程度に関わらず勤め先の判断でドライバー業務から外された、解雇されたという例もありました。そうなると、検査が避けられ、かえって病気の発見が遅れ治療機会を逃してしまう恐れがあります。職業ドライバー人口は減る一方という調査結果があるなか、病名に対する先入観から、運転の機会を奪ってしまうのはもったいないです。適切な治療を続けることで、これまでと変わりなく乗務を続けられるケースは多くあるのだから。
■運転する権利を守るために
パネルディスカッションのなかで「自由に運転する権利」と聞いたときはハッとしました。運転は有資格者の権利なのです。日本全国津々浦々を考えると、自分で運転ができることが生活に欠かせない地域が多くあります。巡回バスやタクシーでは難しい「移動の自由」を持ち続けるためにも、個人ができることは検診と治療です。
視力を総合的に判断するためには、視野の検査が欠かせません。ですが、誰もが簡単に正確な検査結果が短時間で出せる視野検査装置がないことから、検査自体は停滞しているようです。
筆者も経験がありますが、視野の検査は時間がかかり、検査を受ける側にも慣れが必要です。例えば免許の更新の際に義務づけようにも、時間がかかりすぎてしまいます。
ぜひ現代の医療事情、自動車の技術水準に合わせた判断基準や方法を採用してほしいと思います。
■求む! ワンストップサービス
各社から発売されているクルマには、先進的な安全技術やドライバーをサポートする機能が数多く搭載されています。しかし、ひとつひとつがどんな働きをして、どのモデルが自分に合うのかを消費者が個人で選ぶには限界があります。とくに、視野欠損をカバーするためにはどんな機能を選ぶのがいいか、住んでいる地域の特性、使い方などを総合的に考えるのはもはや無理だと感じてしまいました。
「ソーシャルワーカーみたいなチームが必要で、これはおそらく医療チームと工学的な技術のチームと、社会制度と雇用とが連携した、オールジャパン体制で取り組んでいかないと。ユニバーサルという言葉をもっと大切にしよう」。セミナーを締めくくった清水和夫氏の言葉が胸に残りました。
(富山佳奈利)