プレ・オールドニュータウンの公共交通を考える

経済産業省・国土交通省は、中型自動運転バスによる実証実験に向けて、昨年度に5地域のバス運行事業者を選定。7月20日から8月23日まで、兵庫県三田市地域にて行われた実証実験もそのひとつです。

三田市は兵庫県南東部、六甲山地の北側に位置。田園風景が広がる農村エリアと、旧城下町の風情が残る市街地エリア、そして今回実証実験の拠点となったウッディタウン中央駅を含むニュータウンエリアがあります。ウッディタウン中央駅は神戸電鉄では最北端の駅。駅名から想像できるとおり、道幅が広く整備された道路の脇には街路樹が整然と並んでいます。また地域には緑豊かな公園も多く、美しい街並みが印象的です。

週6日、10時から16時台に6便、自動運転バスが三田市ウッディタウン地区を走行しました。2018年には理化学研究所播磨事業所内、2019年には播磨科学公園都市で自動運転の実証実験に取り組んできた神姫バスが実証運行を担当しました

今回の運行ルートは、三田市のウッディタウン地区を巡回する約6km。自動運転バスはいすゞエルガミオがベースで、前後と側方を認識するLiDAR、障害物検知や信号認識カメラ、ミリ波レーダー、磁気センサー、GNSSアンテナなどを装備しています。実証運行するのは神姫バス。すでに路線バスが通常運行しているルート上を走行し、15個のバス停を共用する形で実証実験は行われました。

「営業運行しているなら自動運転バスは不要では?」と思うかもしれませんが、今回の実証の目的は、住民の高齢化が確実視される“プレ・オールドニュータウン”における最適な公共交通体系を、安全・低コストで運行可能な中型自動運転バスを基幹として構築することです。住民の未来の移動と生活の質の向上を見据えての取り組みというわけです。

顔認証システムでキャッシュレス決済を想定

ここでは新たな特徴的な取り組みを行っていました。まず驚かされたのはNECの「顔認証システム」の導入です。事前に顔写真を撮影し、乗車する人の名前などの情報を紐付けします。乗降口に設置されたタブレット端末が乗客の顔を読み取り、入場・退場のマークにタッチすればキャッシュレスで乗車できる仕組み。地域の住民からモニターを募り、その利便性を実感してもらえたのではないでしょうか。

さて、駅前ロータリーを出発です。事前の走行でGPS座標を取得し、走行軌跡をあらかじめ設定しているため、全区間でハンズオフでの走行を可能にしています。運転手は基本、ハンドルに手を添えるだけです。駐車車両や追い越し車両などの有無など、つねに周囲の状況を確認しながら走行します。いざというときは手動に切り替えて安全かつ円滑な運行をするためです。

すべての区間、自動で運行しますが、安全のため運転手と車掌が乗車し、必要に応じて手動で障害物を回避したり停車ができる環境のもと実施されました

ウッディタウン地区の巡回ルートは、道路がきれいに整備され、かつ道幅も広い印象です。実証実験のため、乗降客がいなくても、すべてのバス停に停車。もちろん停車も自動です。しかもバス停に対して、前後のズレや隙間を空けずに停車する、いわゆる正着制御を実現しているのです。実はこれ、ルート上には磁気マーカーが埋設されていることで、より正確な制御ができるのです。

実証実験のために設置された停留所を示す「P」のマーク。これを毎日、撤去・設置を繰り返したというのだから恐れ入ります。自動でここまでバス停に近づけることができるのには驚きです

正着制御や遠隔監視など、安全運行へのこだわり

この磁気マーカー、走行ルートのほぼすべてに埋設されています。というのも、このエリアはウッディタウンという名が示すとおり、道路脇には街路樹が植えられているためGPSが受信しづらいことがあるためです。より安全性と正確性を考慮しての措置というわけです。

そのおかげもあってか、バス停への正着制御は精度が高く、右折時の軌道も安定していたように感じられました。また、今回の実証実験では、安全管理・対策として、遠隔で運転手のモニタリングをしており、わき見運転や覚醒度低下を検知・警告するシステムや、乗客の悲鳴など異音を検知・遠隔監視者へ通報するシステムを搭載するなど、万全の対策が施されていました。

今後、利用者のアンケート結果や、運転者・車掌・遠隔監視者から見た課題などを抽出して、自動運転バスの運用、実現性に向けた検証が進められます。