自動運転というと、主にクルマの技術的部分がフィーチャーされていますが、同時にインフラ整備に加え、重要となるのは法律の整備です。日本は世界に先駆けて、自動運転に関する法律を整えており、今回は弁護士の中川由賀さんに、その内容をはじめ、どの部分が進んでいるのか話を伺いました。 聞き手はSIP cafe 広報担当の藤井郁乃です。

藤井:自動運転中の事故で、加害者となるドライバーにはどのような責任があるのでしょうか。

中川:法的責任としては、刑事責任と民事責任があります。刑事責任としては、自動車運転死傷行為等処罰法による過失運転致死傷罪が問われる可能性があります。いっぽう、民事責任としては人的損害の場合、自動車損害賠償法による自動車損害賠償責任を問われる可能性があります。

藤井:なるほど。と言いたいところですが、ちょっと難しいようなので、刑事責任と民事責任それぞれ解説していただけますでしょうか。

中川:刑事責任というのは、加害者を刑務所に入れたり、罰金を払わせたりする処罰の問題です。それに対して民事責任というのは、加害者が被害者に対してお金を払う損害賠償の問題です。

藤井:よくわかりました。ありがとうございます。
では、ドライバーはどんな場合に責任を問われますか?

中川:まず刑事責任については、ドライバーに過失があったと証明されなければ責任を問うことができません。
それに対して民事責任の場合は、人的損害については被害者がドライバーに過失があったということを証明しなくても損害賠償請求をすることができます。

藤井:被害者はクルマのメーカーに賠償請求することもできるんですか。

中川:法律の理論上は、被害者は加害者であるドライバーに対しても、車両を作ったメーカーに対しても損害賠償請求をしていくことができます。ただ、被害者が加害者であるドライバーに対して損害賠償請求をする場合は、被害者の側で加害者に過失があったことや車両に欠陥があったことを証明しなくても損害賠償請求できるのに対して、被害者がメーカーに対して損害賠償請求する場合は、被害者が車両に欠陥があったということを証明する必要がありますので、比較的請求するハードルが高くなると言えます。
そのため、被害者は加害者であるドライバーに対して損害賠償請求をするということが多くなるのではないかと思います。

藤井:そうしますと、加害者となったドライバーは自動運転中の事故だということで、やはりメーカーに賠償を請求することもあると思うんですけれども、この場合はどうでしょうか。

中川:法律の理論上は、加害者は被害者に対して一旦損害賠償をしたあとに、その後、メーカーに対して車両の欠陥があったということで求償を請求していくということはできます。
ただその場合、加害者であるドライバー側が車両の欠陥があったということを証明していく必要がありますので、少しハードルが高くなると言えるかと思います。

藤井:やはり加害者となったドライバーには大きな責任がかかっているということですね。

中川:そうですね。ですから自賠責保険というものがあるわけですし、任意保険を掛けていくということも大切になってくると思います。

藤井:新しく自動運転に適用するような保険商品というものも考えられているかと思います。そういったものを利用していくことになるということですね。

先ほど刑事責任のところで過失があったと証明できないと責任に問えないというお話がありましたけれども、どういった場合に過失が問われるのでしょうか。

中川:ドライバーは自動運行装置の使用中であっても、自動運行装置の使用条件を満たさなくなった場合や、車両が保安基準を満たせなかった場合については、直ちにそのことを認知して確実に操作するという義務を負いますので、その義務に反した場合は過失責任に問われる可能性があります。

藤井:なるほど。使用条件ですとか保安基準、いわゆるクルマ側が正しく作動しない状態になった場合、そうなるとクルマは警告を発しますよね。警告を無視してドライバー自身が運転しない状況を続けると過失という意味でしょうか。

中川:そうですね。警告があったにもかかわらず運転を再開しなかったというような場合については過失責任を問われる可能性があります。
また、それだけではなくて、例えば前の車両に異常に接近していったりとか、車線をまたいで走行したり、そういった明らかな異常があったにもかかわらず運転を再開しなかったような場合についても過失責任を問われる可能性はあります。

藤井:法律としてはどのような場合に責任、過失を問われるかということは明確になっているということですね。運転席に座る以上、やはり安全意識をもって運転に向き合うことが大切だと思います。
その上で自動運転装置を上手に使ってドライブを楽しむということですね。