自動運転というと、主にクルマの技術的部分がフィーチャーされていますが、同時にインフラ整備に加え、重要となるのは法律の整備です。日本は世界に先駆けて、自動運転に関する法律を整えており、今回は弁護士の中川由賀さんに、その内容をはじめ、どの部分が進んでいるのか話を伺いました。 聞き手はSIP cafe 広報担当の藤井郁乃です。
藤井:今年4月1日に自動運転に関わる法律ふたつが改正になりました。
道路交通法と道路運送車両法ですが、それぞれどのような法律か教えていただけますか。
中川:まず道路交通法は、ドライバーが守るべき交通ルールについて定めている法律です。赤信号では止まらなければいけないですとか、制限速度は守らなければならないといった交通ルールについて定めています。
これに対して、道路運送車両法は、車両が満たしておくべき技術基準について定めている法律です。この車両が満たしておくべき技術基準を保安基準と言います。道路運送車両法は車両がこの保安基準を満たしておくようにするために、車両の点検整備、車検、リコールといったことを定めている法律です。
藤井:ひとつが交通ルールについての法律。もうひとつが車両自体についての法律ということですね。
次に、それぞれどのように改正されたのかお伺いしたいのですが。まず、道路交通法についての改正点について教えてください。
中川:道路交通法については、自動運転に関する改正点が3点あります。
1点目は自動運行装置、それから運転という概念について定義規定を整備したことです。自動運行装置を使って自動車を走行させるという行為も運転という概念に含めるということを明らかにしました。これによって、自動運行装置を使って自動車を走行させるドライバーも、道路交通法上の義務を課されるということを明らかにしました。
藤井:運転という定義に自動運転というものを加えたということですね。それと自動運転中のドライバーでも義務があるということですね。自動運転中のドライバーの義務というのはどういうものになるのでしょうか。
中川:その点が2点目の改正のポイントになります。自動運行装置を使用して自動車を走行させているドライバーの義務を明らかにしていきました。もともと道路交通法はドライバーに対して安全運転義務を課していますが、この安全運転義務は自動運行装置を使用して自動車を走行させるドライバーにも課せられることになります。
また、今回の改正で自動運行装置を使用して自動車を走行させるドライバーは、自動運行装置の使用条件を満たさなくなった場合は、自動運行装置を使用して自動車を走行させてはならないということが明らかにされました。さらに、この点はもともと道路交通法にある規定ですけれども、ドライバーは車両が保安基準を満たさなくなった場合は運転をしてはならないという義務を課されています。これらのことから自動運行装置を使用して自動車を走行させるドライバーは、使用条件を満たさなくなった場合、それから車両が保安基準を満たさなくなった場合については直ちにそのことを認知して、確実に操作をする、そういうことができる状態でいなければならないという義務を負っていることになります。
藤井:使用条件を満たさないですとか、保安基準を満たさないという表現がありましたけれども、これ具体的にどういう場合かということを考えると、例えば使用条件を満たさないというのは、センサーが対応しきれないような霧ですとかゲリラ豪雨ですとか、そういった場合にはもうクルマが警告を発して“これ以上自動運転は無理ですよ”というようなケースも考えられます。保安基準のほうについては、例えばセンサーが作動しなくなってしまったというような不具合を起こしたというケース、これをクルマがドライバーに警告を発するので直ちにドライバーは運転に戻らなければならない、そういうことを意味しているということですね。
そうしますと、例えば報道などで携帯電話を使ってもいいよですとか、車載テレビを観てもいいよというような情報も見られるんですけども、これは許されるのでしょうか。
中川:今回の改正で、確かに自動運行装置を使用している最中に限っては、携帯電話を使用したり、また車載テレビを観たりすることが許されるようになりました。しかしながら、これは自動運行装置を使用している最中であればどんな場合であってもそれを使用していいということではありません。
携帯電話を使用する、車載テレビを観たりするためには、まず自動運行装置の使用条件を満たしていること、車両が保安基準を満たしていること、そしてドライバーが運転しなければならなくなったときにすぐに運転に戻れる状態を維持していること。こういったことが必要になります。
藤井:なるほど、よくわかりました。
先ほど3つ改正点があるとおっしゃった3点目はなんでしょうか。
中川:3点目の改正点は、運転中に作動状態を記録する装置を設置し、得られたデータを保存しなければならないといった義務を定めたことです。これによって、事故や交通ルールに反していた場合に、それが自動運行装置の作動中であったのか、それともドライバー自身が操作している最中だったのかということがデータ上明らかにできるようになりました。
藤井:クルマ自体はそういうデータを保存する機能がついているということですね。
それでは次に道路運送車両法、こちらの改正ポイントについて教えてください。
中川:道路運送車両法の改正のうち、自動運転に関する改正点は4点あります。
1点目は自動運行装置に関する保安基準を定めることにしたことです。
藤井:自動運転ができるクルマはどうなっていれば安全かということを基準として定めたということですね。
中川:2点目は電子的な検査に必要な情報を管理するための規定を設けたことです。
藤井:なるほど。センサーがいっぱい載っていますので、それを特別な装置で検査する。そのために必要な情報を管理するということですね。
中川:3点目は自動運行装置等の整備に関する規定を充実させたことです。
藤井:自動運転ということになると、整備自体も非常に重要になってくるということですね。
中川:4点目はプログラムのバージョン等に関する許可制度を設けたことです。
藤井:クルマを買い換えなくてもプログラムを書き換えることでバージョンアップできる。それを許可制にしたと。それによって、より安全なプログラムのバージョンアップが可能になるということですね。
クルマの技術が進化してきているということで、それに合わせて法律も変わってきているということかと思います。しっかり整備ですとか安全機能への知識ですとか、そういったところをもたなければいけないということですね。
自動運転は世界でも着々と開発が進められていると思うんですけれども、海外でも法整備というのは進んでいるのでしょうか。
中川:様々な国が自動運転に関する法整備に向けて取り組みをしています。ただ、現在、世界でもっとも自動運転に関する法整備が進んでいるのは日本であると言っていいと思います。いわゆるレベル3の自動運転車の市販化のために、交通ルールと車両の技術基準に関する決まりの両方を設けたのは日本が初めてです。また、日本は国連の会議の場でも自動車の技術基準に関する議論等を牽引している立場にあります。
藤井:日本は保守的ということで、何事も遅れがちと思われますが、自動運転に関しては世界に先駆けているということですね。