自動運転に絶対に欠かせない「ダイナミックマップ」。 SIP第1期からリーダーとしてご苦労され、開発してきた白土良太さんにお話を聞きました。聞き手は清水和夫

清水:よくメディアでは3 D とか、詳細な、非常に詳しい地図とか言われてますけども、そもそも自動運転になったら、人間が地図見るというよりAIが地図を読むわけですから、ビジュアルというよりも、いわゆるデータというか、数式ベースなのかなと思っているんですが。このダイナミックマップ、 SIPで自動走行を最初に立ち上げたときから、この地図だけは絶対必要だということで第1期の初期から動いてました。その初期段階から白土さん、リーダーとしてご活躍されていましたけれども、そもそもこのダイナミックマップ、どういう特性があるのでしょうか。

白土:まず道路の情報ですね。今までのナビゲーションの地図ですと、道路はあるんですけれども、その道路が、何車線の道路なのか、右折するレーンはどこなのかとかですね、その道路にはいろいろな属性があります。ですからそういった情報もこれから自動運転をしていく上では必要になってくるだろう、というところがまず一点です。
もうひとつダイナミックマップっていう表現になってるんですけど、ダイナミックっていうのは、動的という意味ですよね。そもそもマップって地図なので、地図って紙に描かれたものですから、本当は静的なものなんですけれども。それに、あえてダイナミックっていう言葉を入れているのはですね、いわゆるその道路の状況、道路交通の渋滞情報ですとか、工事情報ですとか。今、電光掲示板にも出てますけれども、ああいう情報も地図に入れていこうと。ゆくゆくは、SIPの第2期でやってますけど、信号の色が変わるとか、そういう本来なら地図にかけないような、時々刻々変化するような情報、それも統合していこうというのがダイナミックマップという概念になります。

清水:最近、いわゆる準天頂型サテライト、日本も複数のサテライトを上げて、もっと詳細なGPSが使えるということもあり、一般には「GPS使うんだね」と思われていますが、日本の場合、トンネルは多いし、山坂多いし、GPS切れてしまうところもあると思うんですけれども。このあたりGPSとの関係は、いかがでしょうか。

白土:日本はどうしても山が多くて、情報を受けづらいことがあります。ダイナミックマップとか詳細な地図、それだけでクルマは走れるのかというと、やはりそこは難しいところがあります。
例えば、フェリーに乗って移動したりとかしますよね。フェリーに乗ってる間ってクルマは動いてませんので、どういうふうに動いているか、クルマ自身はわかってないんですよね。そうするとフェリーに乗って動いたその先で、いざエンジンかけたときにフェリーに乗り込んだ場所のままの記憶でいるわけですね。
そういうような問題があったりするので、やはりGPSとかそういう外の情報を使って自分の位置を補正するっていうのも、実はこのダイナミックマップを有効に活用するためには、必要な情報になってきます。

清水:新しく日本政府が立ち上げた、準天頂型の精度の高いGPSを使うということが、前提になっているわけですね。

白土:そうですね。やはりそういう準天頂型を使えば、より早く自分の位置がわかりますし、より正確に位置を定められますから、そうすると、その位置情報に基づいて、自分が持っているそのダイナミックマップ、高精度な情報から、自分の位置を正しく把握する、走り始めてすぐにできるようになるのです。

清水:ドライバーが運転しているときのことを考えれば、道の幅が12m あるね、ここに3車線あるね、自分は今どの位置にいるねってことは、人間の認知判断でわかるわけですね。
それが、 AIに教えるときは、その道路の詳細なグラフィカルな、物理的な状況と、自分が時々刻々と秒速何メートルかで動いている、自己の位置をきちっと精度を高く認識する、このふたつが自動運転で絶対大事かなと思ってるんですけども。
そういう意味で、このダイナミックマップがあることによって、自己位置を認識することができるようになるわけですね。

白土:はい、おっしゃるとおりです。自動運転では、その前の景色がどんなものとか、この先情報がどうなっているかというのが大事なんですけれども、その前に、そもそも自分が今どこにいるのかといったことが正しくわからないと、そういったその先の情報も正しく理解できません。
自分の位置を正しく知る、正しく正確に知るということは、自動運転を動かすうえで、大切になってくると思います。

清水:カメラだと信号を読みにくいところもあったり、逆光のようなところは、信号状況もらって、このダイナミックマップの中の動的情報として入れるとか、各レイヤーごとコンテンツごと、ニーズごとにいろいろな実験が行われて、近い将来それがひとつのまとまった、動的な地図になっていくというようなイメージですね。

白土:そうですね。将来的に情報は、やはりいろんなところから取り込むことになると思います。
信号機の情報でしたら、信号機から取り込みますし、道路交通情報でしたら、その道路交通情報が使っているセンターから取り込むとか、いろんなところから情報が入ってきますので、そういったところを統合していって、ひとつのプラットフォーム化していくといったところが、これからダイナミックマップがどんどん実用化に進んでいくという、フェーズになると思います。

清水:道路そのものの更新っていうのは、今まで一般的には、ディーラーにいって1万円とか2万円お金を払って、新しいDVDアップデートする、みたいな話でしたけれども、今はもうクラウドがありますから、常時リアルタイムでアップデートできるような状況になってるかなと思いますけれども、この地図の更新に関しては、白土さんいかがでしょうか。

白土:今SIPでも研究しているのです。クルマの走った軌跡ですね、このクルマが走ってきた動きから、「この道路の構造ってちょっと変わってきてるんじゃないか」というようなこと、そのクルマの情報からですね、地図の更新のヒントを得るというような取り組みも始めています。
こういった研究を進めることによって、その地図の更新の早さといいますか、新鮮さというんですかね、そういったものを保つように、情報を更新していくというような研究もSIPでは進めています。

清水:日本の自動車メーカー、海外とのビジネスが半分以上を占めていますが、海外の地図メーカーとの連携、海外に日本車が渡ったときにどうなるのか、このあたりはいかがでしょうか。

白土:地図の高度化というのは日本だけではなく、海外、とくに欧州、アメリカなど、自動車が成熟している市場の国では同じようなアプローチが検討されています。そういったところを、共通化していこうという取り組み、やはり国際的な連携といったところも進められているところです。
もちろん、民間の会社同士の連携もありますし、我われSIPでも欧州やアメリカのそういうITS関係の調査団体ですとか、日本ではITSジャパンの組織、そういったところと密に連携をして、情報交換しています。各国がどのような進め方をしているか、といったところを情報共有して、フォーマットの統一化、共通化の検討を進めているところです。

清水:この自動運転に資するダイナミックマップ、これは自動走行のために生まれたんですが。しかし、先ほどからいろいろお話し聞いていると、その生きた情報があるということは、もっと他の用途に使えるのではないかなと思いますけども、どのようにお考えでしょうか。

白土:このダイナミックマップは、どんどん実用化が進んでいくと、災害ですとか、防災ですね、そういったところの情報の収集、活用といったところに使えるんじゃないかと思います。
もっと言えばですね、やはり自動運転を目的としているわけなんですけれども、こういった情報って、普通に運転してるドライバーにとってもより安全にクルマを走らせるためには非常に有効な情報になってくるのではないかと思います。ですから自動運転だけではなくて、一般のドライバーにも有効に活用していただきたいと。
さらに言えば、先ほどありましたけど、地図の高精度化が進むと、地形データですとか、いろいろなデータの蓄積のベースっていうんですかね、そういったものにも使えるんじゃないかということです。用途の可能性は広いのではないかと思います。
じつはデータを集めるためには、コストもかかってしまうので、このコストを自動運転だけで追うというのは非常に難しいと言いますか、自動運転が高くなってしまいますので、こういったできたものを自動運転だけじゃなくて、いろいろな防災ですとかデータの統計処理ですとか、そういったものにうまく流用、活用していただくことによって、コストを分散させて広く活用していくというようなことが、今後の発展には重要になってくると思います。

そうですね。まさに国土強靭といいますか、レジリエンスだと思いますけれども。私たちが暮らす社会、あるいはその街とか道路とか国。もっと言えば大きな国土。日本の国土は狭いんですけど、しかしその中で非常にデータをうまく活用することによって、もっと住みやすい、暮らしやすい、働きやすい環境整備を、このダイナミックマップに期待できる。
非常に重要なお仕事だと思いますので SIP 第2期、白土さん、引き続きこのダイナミックマップでご活躍だと思いますので、また何か面白い話があったら伺いたいと思います。今日は、お話いろいろとありがとうございました。