
なぜこのタイミングでの開催なのか?
SIP-adus(SIP自動運転)は東京お台場を基点に2021年10月19日と20日、『SIP-adus実証実験車両ならびに市販の高度運転支援車最新モデルの試乗会』を開催した。
こうした試乗会は2021年4月にも行われたが、なぜこのタイミングで再び実施となったのか?
もっとも大きな理由は、2021年11月から2022年3月末にかけて行われる、東京臨海部での自動運転実証実験についてメディアを通じて社会で広く知ってもらうことだ。
時計の針を少し戻すと、2014年から2018年までの第1期SIP-adusでは自動運転の社会実装に向けた各種要件について法律、技術、人間工学、社会受容性、そして国際協調について深堀りの議論をした。
その中で、大規模実証を通じた代表的に成果物が、産学官連携で取り組んだ高精度3次元地図「ダイナミックマップ」である。ホンダが2021年3月に世界初の自動運転レベル3搭載のレジェンドで採用するなど、日産やトヨタでもダイナミックマップ採用を実現している。
続く、第2期SIP-adus (2018~2022年)は、2020年東京オリンピック・パラリンピックを視野に入れて、東京臨海部実証を通じて最新の自動運転技術を世界に示すショールームとすることを目指した。また、「自動運転と社会」とのつながりを見える化することで、グローバルにおいて自動運転のこれからを議論するための叩き台とするとの目標があった。
ところが、コロナ禍という有事によって、東京オリンピック・パラリンピック開催は1年延期され、また無観客開催となったことで自動運転実証試験の公開の時期や方法を修正する必要が出てきた。
そのため、まずは前述した2021年4月に、当初2020年7月開催予定だったメディア向け試乗会を実施し、今回は2021年度後半に実施する実証試験を主体に置いた試乗会という形になったと、筆者は理解している。
第2期SIP-adusではこれまで、V2I(Vehicle to Infrastructure)と呼ばれるクルマと路外施設でのデータ通信の実証を強化してきた。具体的には、交差点周辺など200~300m圏内で周波数760Hz帯域での狭域無線通信(DSRC)によるデータ送信システムだ。お台場地区に33カ所の交差点信号機で狭域無線通信設備を設置した実証を進めてきた。

これに加えて2021年度では、車載のモバイルデータ通信からクラウドサーバーを経由した信号情報配信などを行うV2N(Vehicle to Network)についての検証を強化する。
具体的には4つの実証パターンがある。
ひとつは、交差点付近を走行するクルマ同士がインフラを介してモバイル通信による運転支援や自動運転を行う。2つ目は、渋滞車線予測によるスムーズな車線変更。3つ目は、ゲリラ豪雨等を予測して回避経路や、自動運転から手動運転への切替をドライバーに提案すること。そして4つ目に、緊急車両の接近についてバーチャルな設定そして緊急車両のデータを流すことで周囲車両への注意喚起と回避を提示することだ。

こうしたSIP-adusに関するこれまでの実績と、これからのチャレンジについて、SIP-adusプログラムディレクター・葛巻清吾氏と、トヨタ先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 技範の南方真人氏から詳しい説明を聞くことができた。
また、国土交通省自動車局 安全・環境基準課 安全基準室長の猶野喬氏による、自動運転や高度運転システムの現状と今後を俯瞰したプレゼンテーションはとても参考になった。
試乗会で感じたこと
さて、今回の試乗会の参加企業のほとんどが、2021年4月にも参加しており、筆者としてはより多くのメディア関係者に各車両の体験をして頂きたいという思いから、今回は先回試乗会では試乗していないBMWと日産の新型車ノートオーラの試乗に絞った。
BMWについては、5シリーズのプラグインハイブリッド車「530e」で、レベル2のハンズオフ機能と車線変更のアシスト機能を体感した。前方向けのカメラとしては近距離、中距離、長距離それぞれを把握する3カメラが特徴で、首都高速での時速60km以下での渋滞時に実施したハンズオフ機能作動中も、前車に対する追従性や、合流地点での隣車線のクルマに対する自車の応答性は、ドライバーとして安心感がとても高いレベルになることを確認できた。
また、日産「ノートオーラ」については、これまでオンラインで商品企画、車体技術、e-Powerにおける電動化技術、コネクティビティ技術、そしてデザインについて日産の担当者と直接意見交換をしてきたが、今回初体験となった実車試乗では、謳い文句そのままにエクステリアとインテリアでの質感の高さと、走りの静かさと楽しさを同乗した日産関係者と共有することができた。
また、ADAS(高度運転支援システム)の観点では、新型「ノート」から導入したナビリンク機能付きプロパイロットと、通常タイプのプロパイロット、そして現行「スカイライン」で初採用しこれから発売される新型EV「アリア」にも搭載するプロパイロット2.0とのシステムの違いを感じることができた。
首都高速での急カーブでは、ナビリンク機能によって適宜に速度抑制したが、実勢速度を考慮したセッティングが施されているため、周囲のクルマとの“間合い”に対する違和感はあまりなかった。
そのほか、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)について、スズキやダイハツによる
同乗体験が行われ、筆者はスズキ「ハスラー」で体験した。
スズキ関係者とも、自動ブレーキの現状とこれからの可能性について意見交換することができた。
一般的に、自動運転や高度運転支援システムについては、法の解釈や高度な技術に関する座学が中心となることが多い。
今回の試乗では、実車による実体験は人の五感を刺激し、自動運転に対する当事者意識を持つために必要不可欠だと改めて感じた。