2021年10月19〜20日の2日間、メディア向けにSIP自動運転 実証実験プロジェクト試乗会が行われた。延期が続いていた2020年度の試乗会は2021年4月で、さほど期間があいていないものの、この11月からの実証実験では、これまでV2I(狭域通信)で配信してきた交通環境情報をV2N(公衆広域ネットワーク)に切り替わること、衝突被害軽減ブレーキが新型車で義務化になったことを受けての開催となった。
試乗に用意された市販車はトヨタMIRAI/レクサスLS、ホンダ・レジェンド、日産ノート/ノートオーラ、BMW3シリーズ/5シリーズ。これらは自動運転技術の現在地を示している。コンチネンタル、ヴァレオ、ティアフォーといったサプライヤーは近未来の自動運転実現のための実証実験車両を持ち込んで、メディアに試乗の機会を提供した。
レジェンドのホンダ・センシング・エリートはダイナミックマップと5つのLiDARを搭載し、2021年3月に世界初のレベル3として発売されたSIP自動運転の活動が色濃く反映されたモデル。4月の試乗会でも試乗希望が殺到したが、世界で唯一のレベル3であり、残念ながら生産中止が決定しているゆえに希少性が高いことから今回も人気の一台だった。
トヨタMIRAI/レクサスLSのアドバンスドドライブは2021年に発売。ダイナミックマップとひとつのLiDARを搭載しており、高速道路や自動車専用道で高い速度までハンズオフを実現する。レベル3ではないものの、比較的にリーズナブルな価格とされ、ハイレベルな自動運転技術を早期に普及させようというものだ。
日産はスカイラインのプロパイロット2.0にダイナミックマップを搭載して高速域のハンズオフを実現し、4月の試乗会に登場していたが、今回はNissanConnectナビと連動してカーブなどで速度を自動調整するナビリンクを搭載したノート/ノートオーラを用意。スカイラインほど高度ではないが、あまりコストをかけずに快適な運転支援を提供する。
BMWはセンサに3眼カメラを採用し、日本で初めてハンズオフ(高速道路での渋滞時限定)を実現した。2019年に日本導入された3シリーズを始め、それ以降に導入した新型車に装着されている。また、BMWはV2Nの実証実験車両であるX5の展示も行った。
ドイツのメガサプライヤーであるコンチネンタルはドライバーレスの完全自動運転を想定したバスタイプの実証実験車両を持ち込んだ。一般的な自動車のようにステアリングやペダル類はなく、マニュアル運転用にゲームのコントローラーが搭載されているのみ。時速15km程度ながら周囲の安全を確認しながら着実に走っていく姿は近未来を予見させるものだ。
フランスのメガサプライヤーであるヴァレオは、自動運転レベル4を実現する“Drive4U”を搭載した実証実験車両を用意。SCALAと呼ばれるレーザースキャナ(LiDAR)とダイナミックマップの組み合わせで、一般道での自動運転しつつ、臨海副都心地域で提供されている信号情報などとのマッチングも実験している。車載のモニターでは、SCALAによって自動車、歩行者、自転車など周囲の状況が綺麗に把握されていることがわかる。
ティアフォーは世界初のオープンソースの自動運転OS“Autoware”を開発するスタートアップで、これと高精度地図を搭載したJPN TAXIを持ち込んだ。同社はSIP自動運転の臨海副都心地域だけではなく、10台の車両を用いて多くの地域で実証実験を行っているだけあって、地域差によるノウハウも蓄積しているそうだ。また、アップデートにも余念がなく、日々進化している。自動運転タクシーは公共交通の存続危機や交通弱者への対応といった課題を解決することになりそうだ。
試乗会敷地内の特設コースではスズキ、ダイハツの軽自動車の衝突被害軽減ブレーキ搭載車両の同乗試乗、トヨタのプラスサポート搭載車の試乗が行われた。

衝突被害軽減ブレーキは2017年1月にWP29(自動車基準世界調和フォーラム)において、日本の提案によって国際基準の検討が始まり、2019年6月に成立。他国に先駆けて2021年11月から国産車の新型車への義務化が始まった。国産車の継続生産車は2025年12月、輸入車は新型車が2024年7月、継続生産車が2026年7月からの義務化となる。
義務化以前から日本国内では90%を超える普及率を誇る衝突被害軽減ブレーキだが、その性能を確かめてもらうとともに、機能には限界があり過信は禁物であることを改めて知らしめるのも今回の目的。体験試乗そのものは5分程度で終了してしまうが、30分の試乗枠をとって丁寧に説明する時間がとられた。ダイハツは軽トラックのハイゼットを持ち込み、これがメディアには人気で、多くの記者が同乗試乗することとなった。軽トラックの義務化は2027年9月からだが、すでに実用化されていることも評価された。
プラスサポートは、過去のペダル踏み間違い事故などのデータから、アクセルペダルの踏み込みパターンによって、踏み間違いだと判断して加速を抑制するシステム。前方に障害物がない状況でも踏み間違い事故を抑制する効果があること、ビッグデータによる開発、スペアキー代のみのリーズナブルな価格設定など、画期的なシステムではあるものの、いまのところ世の中にあまり認知されていない。その効果のほどがわかりにくいシステムでもあるのだろう。そこで今回はメディアの皆さんに運転してもらって有用性を理解していただいた。こちらも30分枠として説明やインタビューの時間を多くした。

試乗以外のプログラムとしては、国土交通省による「法整備の動向」、SIP自動運転の「実証実験の最新情報」を解説するとともに、「視野障害体験ドライビングシミュレーター」を用意。
参加したメディアは2日間合計で70社103名。すべての国民が安全・安心に移動できる社会を目指して、自動運転の社会実装に向けたSIPの取り組みを広く知ってもらう機会になった。