早いもので、ホンダが世界初の自動運転レベル3の機能を持つ条件付き自動運転車を正式発表してから約半年が過ぎた。
その間、SIPが主催する自動運転や高度運転支援システム(ADAS)に関する公道試乗会が東京お台場周辺で行われ、国内外に対して自動運転の技術や法整備、そして社会受容性に対する情報が発信されてきた。
だが、直近でホンダ以外の日系自動車メーカーからは、レベル3以上への自動運転レベルアップに拘った商品戦略に関する声が聞こえてこない。
それよりも、「自動運転レベルのあり方の再定義」の必要性を指摘する声があちらこちらから出てきている状況だ。
レベル定義の経緯
そもそも、自動運転レベルはどのように決まったのか?
「日本における自動運転レベル定義を巡る経緯」(内閣府)を基に、これまでの流れを振り返ってみたい。
最初の動きは2013年にアメリカで起こった。
NHTSA(米連邦運輸省・道路交通安全局)が2013年6月、自動運転のレベル定義を0から4までの5段階として暫定的に決めた。
一方、SAE(米自動車技術会)は、2014年1月に自動運転のレベル定義を0から5までの
6段階として定義した(SAE J3016)。
こうした状況を踏まえて、日本では2014年6月に官民ITS構想ロードマップの記載方法として、NHTSAのレベル定義を踏まえて、4段階のレベル定義とした。
これとほぼ同時期の2014年7月、筆者は米サンフランシスコで開催された、米国防総省とのつながりが深い、無人移動機器に関する学会AUVSI(Association for Unmanned Vehicle Systems International)が主催するAutomated Vehicle Symposium 2014に参加した。
その際、開催初日のブリーフィング時に主催者から、NHTSAとSAEによる2種類の自動運転レベル定義が存在し、策定にあたってはBast(ドイツ連邦道路交通研究所)も参加したとの説明を受けた。
参加した自動車メーカー、自動車部品メーカー、IT関連事業者、そして大学などの学識者の中からは「2つのレベル定義が並存する必要があるのか?」という疑問の声が出た。
自動運転レベルは、自動運転に関する議論を進める上で、議論の参加者が共通認識を持つことが定義の根拠であるはずなのだが、NHTSAとSAE、さらに日本での定義が違うという”ちぐはぐな状態”がその後、約2年間に渡り続いた。
こうした状況が2016年に大きく変わる。
NHTSAが1月に暫定的な改正を行い、9月にSAE J3016も改正された後、9月にNHTSAが自動運転車政策を発表したが、その内容はNHTSAが基本的にSAEの自動運転レベルを採用することで、グローバルでの自動運転レベル定義を一本化するというものだった。
その裏には、オバマ政権の実質的に終焉が見えてきたことでの、行政各機関によるオバマ政権下での”駆け込み対応”があったと感じている。
オバマ政権では、自動運転車を筆頭とした陸上での自動走行を含め、空域での無人飛行や海域での無人運航を重要政策として推し進めてきたが、ドナルド・トランプvsヒラリー・クリントンによる大統領選挙が混迷を深めるなかで、どちらに転ぶにしても現政権下での施策の締め括りを進めたいという思いが、DOT(米運輸省)幹部の間で強まったという印象があった。
別の視点では、2016年5月にフロリダ州内で発生したテスラ「モデルS」のADAS機能オートパイロット作動時に起こった乗員の死亡事故の影響が大きかった。NHTSAなど自動運転に関わる行政機関の動きが、それまでの「アメリカが自動運転で世界をリードしていく」という積極的な姿勢から「自動運転はあくまでも安全安心が第一」という姿勢に転じたのだ。
こうしたアメリカでの動きを受けて、日本ではSAEの自動運転レベル定義と同調したNHTSAの新しい定義を踏まえて、官民ITS構想ロードマップが変更された。
その際、筆者は政府関係各位と意見交換しているが、国としていつからNHTSA新定義を採用したかと明記するのではなく、段階的に既存の資料などでの表記方法をNHTSA新定義に置き換えていくという姿勢だった。
そのため、メディアが自動運転に関する報道をする際も一時期、自動運転レベルの表記が報道内容によって違いが生じるケースもあった。

そろそろ改訂時期か?

こうして、2016年秋以降からいま(2021年9月)までの約5年間は、グローバルでの自動運転レベル定義は継続されてきた。
ただし、課題となったのは自動運転レベル3(条件付き自動運転)における条件の設定だ。大別すると、一般道や高速道路など道路条件、都市部や中山間地域などの地理的条件、さらに天候や夜間など環境条件に応じた条件付けが想定されている。
これを、ODD(Operational Design Domain : 運航設計領域)と呼ぶ。
新型レジェンドの自動運転レベル3のODDは、渋滞時を走行条件としたトラフィックジャムパイロットとした。
一方で、自動運転レベル2を特定条件下での自動運転機能(高機能化)としており、トヨタセーフティセンスのTeammateや、 スバル新世代アイサイトのアイサイトXなどを実際に運転すると、渋滞時のハンズオフ走行時などでは、レベル2とレベル3との差をドライバー自身が理解することは難しいと感じる。
こうした高度なレベル2の量産化が進むなかで、自動運転レベル全体を見直すべきとの声が自動車メーカー側から挙がってくるのは当然だと言える。