
浜松の「やらまいか!」の熱量が大好きである。
「やらまいか!=やっちまおうぜ!」をスローガンに浜松市内はもちろん他所者も巻き込みながら新たな都市のあり方を生み出し続けている。
私は東京出身東京在住なのだが、ありがたいことに「やらまいか!」熱量に惚れ、そして同じ熱量を有していることを感じていただけているからなのか、2020年から浜松市主催のオンラインイベントで司会&パネルディスカッションのモデレートなどをさせていただく機会を多くいただいている。
浜松市が掲げる「デジタル・スマートシティ」を目指すべく林業・農業・医療などの専業別セミナー、スタートアップ連携などテーマにオンラインセミナーを一緒に進行させていただいているのだが、その中でも「モビリティ」分野のオンラインセミナーを実施する際には他とは違う特徴があるのが面白い。
オンラインセミナーなのでオープンに浜松市外の方も参加できるものなのだが、「モビリティ」分野だけは浜松市内からの参加者が過半数を超える。毎回100名ほどの方が参加してくださるのだが、例えば林業テーマだと浜松市内からの参加者が約30%のところ、モビリティテーマだと浜松市内からの参加者が約60%となる。それだけ、浜松市内の方々が「モビリティ」分野に対して関心を寄せ、力を入れていることの表れなのだろう。
さて、それでは浜松市の「モビリティ」分野の動きで「やらまいか!」な熱量が多いのはどのような取り組みなのだろうか? 2021年7月、8月と2カ月連続浜松市主催の「モビリティ」関連オンラインセミナーが開催されているので、そちらをベースに紹介していく。キーワードとなるのは「浜松版MaaS」構想とそれを支える人材、エコシステムづくりである。
天空海闊:新たなモビリティサービスを生み出す土壌
日本政府は「日本版MaaS」を掲げているが、浜松の環境・人材(精神面)・産業の特徴&強みを活かして、浜松市では「浜松版MaaS」を掲げている。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)はサービスを提供することが主となるのでそれぞれの地域や環境によって必要なMaaSは変わってくる。「浜松版MaaS」は、様々なステークホルダーを巻き込みながら進めているのが魅力である。
「浜松版MaaS」の特徴&強み
・環境要素として海・山・川・都市部を持つ国土縮図型都市として多様な暮らしや楽しみ方が提供できる浜松(多様性)
・人々のメンタル要素としての「やらまいか精神」で挑戦を恐れず他所者も受け付けることができる浜松(助け合い)
・スズキ・ヤマハ・ヤマハ発動機などモノづくりが強みとなる産業要素(創造性)
この特徴&強みを活かして新たな移動にまつわるサービスを生み出していくのが「浜松版MaaS」構想なのだが、ここでも「やらまいか!」というスローガンが含まれているのがとても重要だと感じている。浜松市の公式資料*の中にも『「やってみよう」「やってやろうじゃないか」と、新しいことに果敢にチャレンジする精神、そして浜松を誇りに思い、互いに助け合う心』を大切にするのが「浜松版MaaS」構想であると述べられている。正解が見えないプロジェクトを進めていく上で、挑戦者を内外から受け入れ失敗も許容してくれる懐が深い土壌は、多様なステークホルダーを巻き込む上でも重要なポイントではないかと考える。
maas_kaisetsu* https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/documents/111253/maas_kaisetsu.pdf
薬屋もMaaSプレイヤー、移住者もMaaSサービスサプライヤー
多様なステークホルダーを受け入れる仕組みとして2020年4月に「浜松市モビリティサービス推進コンソーシアム」が立ち上がった。共同幹事として浜松市、遠州鉄道、スズキ、そしてアドバイザリー会員としてMONET Technologiesがおり、2021年7月20日時点で73団体**が参加している。私が面白いとおもうのは自動車、鉄道という既存のモビリティプレイヤーが存在するのはもちろん「薬局」なども含まれている。2020年末に行われた浜松市の「春野医療 MaaS プロジェクト***において、中山間地域の高齢者に向けてドローンで薬を配達する地域医療サービスの環境整備において参画している杏林堂薬局もコンソーシアムメンバーである。このコンソーシアムメンバーリストを見ているだけで既存の「モビリティ」という概念を壊してくれて面白い。
「Foodelix」という浜松発のフードデリバリーの仕組みも非常に興味深い。コロナ禍で生まれたサービスなのだが、浜松のタクシー、新聞配社、酒屋などが食料品や薬、飲食店の一品をご家庭・会社に届ける仕組みである。Uber Eatsや出前館に近しいサービスモデルだが、浜松市内の人口率9割をカバーできるほど多くの方に愛されている。それは配達の便利さだけではなく、市内の様々なステークホルダーを巻き込みながらみんなが幸せになる仕組みを作っている座組みが愛される理由なのだろう。「コロナでタクシー業界が打撃を受けたのであれば、タクシー業界を巻き込んだサービスを作ろう」というようなニーズありきの発想で必要なモノを届けるときのプレイヤーを巻き込んでいっているのである。創業者は渡邉一博さん。サーフィン好きが高じて浜松に移住してきたDJ兼スタートアップ創業者である。浜松市の職員もFoodelixメンバーとして定例会議を行いながら市内在住の配達希望者に、市内のさまざまなステークホルダーを巻き込みながら配達をしている。利便性や経済合理性だけを追求するのではなく、困っている人たちを巻き込みながらみんなが幸せになる仕組みを作っているのが「やらまいか!」な浜松版MaaSが作り上げられるプロセスには垣間見られる。
先述の「浜松市モビリティサービス推進コンソーシアム」では、浜松市内外のプレイヤーを巻き込んでアイディアソンなども実施している。「やらまいか!」な風土で他所者も含めて新たなサービス実験をしたいと思う情熱ある方々を快く受け入れてくれる仕組みを準備している。人口減少・超高齢化社会を迎える日本では新たなモビリティサービスが必要とされるが、そのサービスを生み出す土壌として「やらまいか!」な土壌は挑戦し甲斐がある場所である。浜松で挑戦し、それを地元に持ち帰るもよし、浜松市から全国展開を目指すもよよし。もしもこの原稿を読んでらっしゃる方のまわりで挑戦の場所を探している方がいればぜひ浜松の扉を叩いてみることをお勧めしてほしい。はじめの一歩として浜松市が提供する「浜松市デジタル・スマートシティ官民連携プラットフォーム****」に登録することをお勧めする。Slackへご招待され、とても闊達なコミュニケーションに参加することができデジタル上でも「やらまいか!」を感じられること間違いなしである。
****https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/digitalsmartcity/platform.html
MaaSは地域や環境ごとに必要なサービスは変わってくるとは思うのだが、浜松の”やらまいか熱量”が日本全国に波及していくことは必要なことだと感じている。MaaS成功の鍵は多様な人が熱意もって参加し&楽しみながら挑戦できる風土を作っていくことかもしれないので、その熱意&挑戦の環境を構築し続ける「浜松版MaaS」の今後も注目していきたい。