未来を変えるショーケース

2021年4月20~21日、東京のお台場で実施された、自動運転実証実験プロジェクトの試乗会に参加し、乗用車の「オーナーカー」と公共交通機関をイメージした「サービスカー」の両方に試乗した。

これは第2期SIP-adusにおける、自動運転ショーケース。当初は、2020年7月開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックに合わせて行われるはずだったが、新型コロナ感染症拡大の影響で実施が約9カ月遅れた。

オーナーカーの試乗については別枠のコラムで紹介しているので、本稿ではサービスカー試乗に的を絞って紹介する。

試乗したのは、ドイツのコンチネンタル、フランスのヴァレオ、日本のベンチャーであるティアフォー、そして金沢大学の実験車両だ。

その中でも驚いたのが、コンチネンタルが「シームレス モビリティ コンセプト」と呼ぶ複合的な自動運転技術の性能の高さだ。

想定としては、いわゆるパークアンドライド方式を用いて、郊外から市街地付近まではパーソナルカーで移動して、駐車場では自動駐車機能が作動する。それから、無人運転シャトルに乗り換えて市街中心部に移動するという流れだ。

パーソナルカーといっても、運転席に補助ドライバーがいる状態ながら市街地でレベル4相当での走行を行った。曲率の強いカーブでのクルマの動きや、交差点で対向車や横断歩道に歩行者がいる状況での停止や発進のタイミングは、まるで人が運転しているように自然だと感じた。

自然体なクルマの動きは産学官連携の成果

次に、無人運転シャトルへ乗り換えた。外観はフランスのイージーマイル製のハードウエアだが、中身が違う。コンチネンタルが独自開発したアルゴリズムを用いたソフトウエアに組み替えて、量産型イージーマイルとはまったく別の乗り物になっていた。

特徴としては、77GHz周波数帯域のミリ波レーダーを、車体前部に5つ、車体後部に2つの合計7つ装備して、周囲の状況をセンシングしながら走行する点だ。実証試験では米ヴェロダインのライダーを併用はしているものの、ミリ波レーダーを複合的に活用することでライダーの欠点である雨など気象変動に対する影響を補完することに加えて、ライダーと比べてコスト削減の効果も見込む。

また、車内のモニタリングも行い、傘などの忘れ物に対する乗員への注意喚起や、車内で体調不良になった乗員がいた場合の救急対応なども考慮している。

オーナーカーと同じく、無人運転シャトルも走行中の動きは極めて自然であり、乗員として安心感を持つことができた。

その背景として、信号機情報を760MHz周波数帯域でのデータ収集するシステムによって、青信号と赤信号の点灯の残時間を把握できることで、いわゆるジレンマゾーンの対応が可能となり、交差点付近での加減速にスムーズになっていることが挙げられる。

筆者は2000年代からこれまで、世界各地の国や地域で自動運転に関するシンポジウムや学会などを定常的に取材しており、様々な自動運転サービスカーを試乗してきたが、今回のコンチネンタルを始めとした各種サービスカーの性能の高さに驚いた。

試乗後、各社関係者から話を聞くと、以前から言われているように「日本は世界の中で、自動運転実証試験で産学官連携がもっとも進んでいる国だ」という指摘をする。

高精度三次元地図「ダイナミックマップ」、そして760MHz周波数帯域での信号機情報の送受信システムの整備などハードウエアによる協調領域の強化はもちろんのこと、SIP-adusの取り組みとして研究開発者らが情報交換する場が多いことも、日本が自動運転先進国である大きな理由だと感じる。

レベル4の本格的事業化は2030年代に入ってからか?

筆者は福井県永平寺町で、交通政策について議論する永平寺町エボルーション大使として、経済産業省と国土交通省が産業総合研究所と連携して2017年度から実施しているラストワンマイル自動運転実証試験の現場に立ちあってきた。直近では2021年3月25日には、レベル3遠隔型自動運転システム(1:3)の本格運行に向けた出発式にも参加している。

同町の自動運転システムは、ヤマハのゴルフカートによる電磁誘導型であるため、今回お台場で試乗したコンチネンタルやティアフォーの実験車両と比べて、自動運転で走行できる場所が限定されるなど運用上の制約がある。その反面、遊歩道という専用道に近いインフラ条件によって一般交通との交差するケースが限られていたり、コストが比較的安く抑えされるなどの利点がある。

このほか、全国各地に産学官連携による自動運転実証試験は数多く存在しており、それぞれの地域の実用に適した形での事業化を目指している状況だ。

お台場での試乗会の10日後、国は自動走行ビジネス検討会で「自動走行の実現及び普及に向けた取組報告と方針」Version 5.0を公開している。副題は、レベル4自動運転サービスの社会実証を目指してである。

そこで示されたロードマップによると、高速道路でのトラック縦列走行などを含めて2025年度までに自動運転のユースケースを拡大させ、収益モデルの開発を急ぎ、2026年度以降には全国40カ所以上で無人自動運転サービスの開始を目指すとしている。

その上で、今回のお台場での試乗会や永平寺町での事例などを含めて、筆者が各方面と議論している限りでは、自動運転サービスカーの本格的な普及は「2030年代に入ってから」という声が多い印象がある。

すでに、技術的にはかなり高いレベルに達しているレベル相当の自動運転サービスカーだが、社会需要性と事業化の観点から、普及に対して慎重な意見があるのが実情である。

とはいえ、カーボンニュートラルの観点で近年、世界各地で一気に高まったEVシフトのように、世界的な法規制の強化、またはESG(環境、ソーシャル、ガバナンス)投資のさらなる発展などの影響で、自動運転サービスカーの普及が前倒しになる可能性も否定できないと思う。