
2021年1月、日本国内でもメルセデス・ベンツのフラッグシップセダン、新型Sクラスが発売開始された。新型Sクラスには、法規の関係で日本仕様には搭載されていない先進機能がいくつか存在する。そのひとつがレベル3の自動運転を可能とする「DRIVE PILOT」と呼ばれるものだ。年央の法改正をうけ、2021年後半からドイツ国内の高速道路での使用開始が想定されており、当初は時速60kmまでと速度制限されている。ちなみにレベル3の自動運転とは、条件付き自動運転システムであり、一定の条件下で特定のパラメータが適用されると、運転のタスクを車両側が担うというもの。ただし、ドライバーはシステムからの指示があれば、即座に運転タスクを引き継がなければならない。
「DRIVE PILOT」は、カメラやセンサーの数や性能を拡張、さらにLiDAR、高精度な位置情報測位システム、高精度3D地図などによって構成される。例えば画像処理には、人工知能の技術が使用されており、安全アーキテクチャの一環として、すべてのアルゴリズムは2度にわたって瞬時に計算される仕組みだ。
システムを起動するためのコントロールスイッチは、ステアリングホイールのリムの内側の、ちょうど左右の親指があたる窪みの箇所に配置されている。オンオフはこのスイッチによって操作が可能だ。高速道路を走行中に渋滞にさしかかると、ドライバーは右側のスイッチをオンに。システムが速度や前走車との距離を制御し、車線内を穏やかに誘導。ルートプロファイル、ルート上で発生している事故や工事、交通標識などを計算し、それに応じて走行する。また、予期せぬ交通状況を認識し、車線内での回避行動やブレーキ操作によって自律的に対処することが可能となっている。
システム起動時は、ドライバーはハンズオフ&アイズオフの状態で、インターネットの閲覧やメールのやりとりなどが可能となる。また、車両側は通常走行時はロックしている機能が使えるようになる。
ただし、ドライバーはシステムからの指示があった場合や、周囲の走行速度の上昇など適用条件から外れそうな場合には、運転を再開できるように準備しておく必要がある。システムはドライバーに運転の再開を促し、ドライバーは10秒以内に自ら運転を続けることができなければならない。ドライバーディスプレイのカメラとMBUXインテリアアシストが頭とまぶたの動きをモニターしており、万が一の健康上の問題など、緊急警告を出してもドライバーが反応しなければ、車両側が適切な減速度でブレーキをかけて自動停止。同時に、ハザード警告システムと、メルセデス・ベンツの緊急通報システムが作動し、救急隊員が車内に容易に出入りできるようドアと窓のロックが解除される。
ドイツでは、いまのところ法律によって条件付き自動化システムの最高速度は時速60kmに制限されているが、DRIVE PILOTは法整備が整えば、無線のシステムアップデートによってより高い速度域への対応や、その他の拡張機能が使えるようになっているという。また、今後は他の欧州諸国をはじめ、米国、中国へも導入が予定されている。
さらに新型Sクラスには、オプションでレベル4の高度な自動バレー駐車機能「インテリジェント・パーキング・パイロット(AVP:Automated Valet Parking)」を搭載することが可能という。
これは、駐車場運営会社のApcoa、ボッシュ、メルセデスの3社が協働で世界初の商業施設用自動バレーの提供に取り組んでいるもの。シュトゥットガルト空港のP6駐車場内に、AVPユーザーのための送迎エリアを設置。ユーザーがそのエリアに到着し、専用のアプリでチェックインすると、駐車場インフラ技術の情報に導かれて、Sクラスは自動で空きスペースに駐車を行う。帰路はユーザーが空港に到着後、アプリで車両を呼び出せば、自動で送迎エリアまでやってくるというものだ。急いでいる時や狭い駐車スペースで人や荷物の出し入れをする手間から開放される。またこれら一連のシステムによってAVPユーザーはチケットレスかつキャッシュレスな駐車サービスを受けられる。P6には当初、セルフパーキング用の2台分の送迎スペースを用意。今後、計画通りに「インテリジェント・パーキング・パイロット」の搭載車が増え、需要が高まれば、さらに多くのスペースが追加される予定という。
4.
メルセデス・ベンツは新型Sクラスで、条件付き高度自動運転(SAEレベル3)への決定的な一歩を踏み出すことになり、さらに高度な自動バレー駐車機能(SAEレベル4)を量産車として世界で初めて顧客に提供することになる。