3月4日、ホンダのフラッグシップ新型レジェンドが発表されました。注目はなんと言ってもレベル3の自動運転機能を採用した点でしょう。レベル3はわたしたちにどれだけの恩恵があるのでしょうか。どのようなドライブ体験ができるのでしょうか。

ついに発売、世界初のレベル3「ホンダ・レジェンド」

―ホンダからいよいよ「レベル3」の自動運転機能を実装した高級車「レジェンド」が発売されます。昨年11月に国土交通省が型式指定を行った際には、世界初の認可ということで話題になりました。

よく「日本は自動運転の実用化で世界から遅れをとっている」なんて言われますが、実は正反対。世界に先駆けて法整備を進めてきたんです。国内では2019年、道路運送車両法と道路交通法の自動運転に関する規定が改正され、2020年4月1日に施行されました。一方の世界では、これと同等の基準が2021年1月、WP29(自動車基準調和世界フォーラム)によって発行。つまり日本は遅れているどころか、世界に8カ月も先行しているんですね。

―そもそも自動運転の「レベル3」とはどのようなものか、改めて教えてください。

簡単に言うと、レベル2までは衝突被害軽減ブレーキや高速道路でのハンズオフなど、どちらかというと「運転支援」がメインでした。これがレベル3になると、ドライバーはハンズオフに加えて前方監視義務から解放され(アイズオフ)、運転中にメールチェックなどをしてもOK。前を見なくてもいいので、隣の人と会話をしてもいいし、もちろんハンズフリー、フットフリーですからアクセルもブレーキも踏まなくていい。「寝る以外だったら何をしてもいい」というのが一般の方の期待かもしれません。しかし、現状の技術では、そこまでドライバーが運転義務から開放されるわけではないのです。ここを理解するのが難しいですよね。

レベル3は渋滞時にしか使えない?

―私たちが想像する「自動運転」のイメージに、だいぶ近いですね。

ただ注意すべきなのは、レジェンドの場合、自動運転になるにはいったん渋滞の速度「時速30km以下」にならないとダメです。時速30km以下じゃないとオートパイロットのシステムが作動しません。つまり渋滞時に自動運転へと切り替わり、渋滞が緩和されてクルマのスピードが上がって時速50km以上になると、またドライバーの運転に戻るんですね。
もっと具体的に言うと、高速道路で渋滞に巻き込まれ、時速30km以下のノロノロ運転になったとします。そこで運転者がオートパイロットのスイッチを入れると、レベル3の状態になります。そうなると道路交通法で、ドライバーは前を見なくてもいいというルールになっているので、セカンドタスクが可能になります。

―つまりメールチェックするなりテレビを見るなりしてもいいんですね。

はい、可能ですがいつでも運転に戻れる状態にしておかなきゃいけないので、両手で熱いコーヒーを持ったりするのはダメです。しかし、今回のレジェンドの正式発表で明らかになったことは、法律では細かいドライバーのタスクを規定していなので、ホンダはより安全性を確保するために、スマートフォンの利用を禁止しています。つまり、車載のカーナビやテレビは見ることができますが、手に持ったスマートフォンを使うことをホンダは禁止しています。このあたりの考え方は、メルセデス・ベンツSクラスも同様ですが、メルセデスのレベル3の利用は時速60km以下になったら可能です。

―ドライバーはいつでもハンドルを握れるよう、備えておく必要があると。

今回改正された道路運送車両法では、システムから運転交代を要請されてから、10秒以内にドライバーがハンドルを握らなかった場合、「ミニマム・リスク・マニューバー(MRM)」という機能が発動して、クルマが緊急停止することになっています。このルールは日本が世界に先駆けて議論していて、国際基準にも取り入れられたんですよ。しかし、ホンダは運転交代から約5〜6秒後にシートベルトを振動させ、ドライバーに運転交代を促します。

ハンズオフで走れる「レベル2」で十分との意見も

―自動運転中に何かあったら、運転者は10秒以内に対処しないといけないんですね。

でもそうすると「そもそもレベル3って必要なの? レベル2で十分では?」という話にもなってきます。レジェンドは時速30km以下の渋滞にならないと使えないし、何かあったら10秒以内にハンドル操作に戻らなければならない。渋滞時に車載モニターを見たり、カーナビも操作できるのは便利だけど、そのためだけに高いお金を払わなきゃいけないの? と疑問も残りますよね。価格を見ても、レベル3のクルマはホンダ、メルセデス・ベンツの1000万円以上する高級車ばかりだけど、レベル2なら300万円台でも買える。それならレベル2の日産スカイラインやスバル・レヴォーグ、BMWで十分だという人もいるでしょう。スカイラインは時速120kmでも高速道路でハンズオフできます。しかし、運転支援が高度化するとユーザーはどうしてもシステムに頼ってしまい、過信しやすくなります。実際に高度なレベル2の過信が原因の事故が生じており、米国SAE(自動車技術学会)や日本の専門家も、レベル2を「自動運転」と呼ばないということで一致しています。
そこからさらに「時速30km以下になったらアイズオフ=目も離していいよ」というのがレベル3で、本当の自動運転です。ただし、レベル3のレジェンドも時速50km以上になるとレベル2に戻りますが、一旦、ハンズオンの状態に戻します。しかし、レベル3を可能とするセンサーを持っているので、レベル2の性能も飛躍的に進化しています。

―でもその「時速30~50kmでアイズオフの自動運転ができる」点に魅力を感じない人からすれば、「レベル2で十分」と思ってしまうかもしれませんね。

にもかかわらず、なぜ自動車メーカーは技術開発をやらなきゃいけないかというと、レベル3は自動運転にとって「最初の一歩」だからです。この段階をクリアしなければ、その先のレベル4や5=「完全自動運転」には進めないんですよ。レベル3は大切な通過点なんです。

ホンダは「レベル3」で先陣を切った

ある自動車メーカーは、「レベル3の開発はするけど、具体的な商品は出さないでじっと我慢して、一気にレベル4へいっちゃおう」と考えているケースもあります。これに対して「ちょっと怖いけど、レベル3を最初に味見してみよう」っていうのがホンダやメルセデス・ベンツですね。

―レベル3のクルマを販売するということは、リスク込みで先陣を切るということなんですね。

たとえるなら、「生牡蠣を誰が最初に食べるか」みたいな感じ。レジェンドは今、まさに生牡蠣を食べにいっている状態です。それで誰もお腹を壊さなかったら、みんなあとからついていくだろうなと。

―世界中が、レジェンドの行く末をじっと見ていると。

2020年に、日本で世界初の自動運転に関する法律が施行され、11月11日に世界初となるレベル3のレジェンドが型式認定されました。ここがようやくスタート地点。箱根駅伝でいえばまだ大手町をスタートしたばかりの段階です。あとで自動運転の歴史を振り返ったとき、「2020年がスタート地点だった」と、多くの人が思うはずです。

―ありがとうございました。今回は乗用車の自動運転について伺いましたが、次回は広くサービスとしての自動運転や、MaaSの世界潮流について教えていただきたいと思います。(聞き手:北条かや)