トヨタ自動車が2020年1月に世界最大の家電見本市CESで、静岡県裾野市の東富士工場跡地(2020年末に閉鎖予定)に、約70.8万㎡の壮大な実験都市「Woven City (ウーブン・シティ)」を作ると発表したことが話題を呼びました。
次世代技術の実証実験フィールド、さいたま市「美園」
しかし、日本にはWoven City以外にも壮大な次世代技術の実証実験フィールドとして位置付けられ、さまざまな実証実験が行われている地域がたくさんあります。
浦和レッズのホームスタジアムがある街として知られ、東京メトロ南北線と直通運行する埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線始発終着駅の浦和美園駅のある「美園(埼玉県さいたま市)」もそのひとつです。古くから住むさいたま市民は、何もないところだったと口を揃えて言うほど、美園は新しい街で開発が進んでいます。
今後ますます都市開発が進むことを見据えて、まちづくりに資する調査・研究・社会実験・企画・調整などを行う美園タウンマネジメントを中心に、公民プラス学連携で進めています。例えば、美園の約500万㎡をどのような街にするか、住民・地権者や企業、大学などの専門機関、行政機関などとともに「美園スタジアムタウン憲章」や「みその都市デザイン方針」を策定し、先端テクノロジーを取り入れて具現化するためのさまざまな取り組みを行っています。

次世代自動車・スマートエネルギー特区の重点事業として、スマートホーム・コミュニティ事業を行っており、2020年の環境省「第8回グッドライフアワード」で環境大臣賞に選ばれました。コミュニティ内の各住宅で充電した再生可能エネルギーをシェアし合い、EVを蓄電池として使うことも予定しているそうです。また公道走行における電動キックボードシェアリングの実証実験をいち早く実施し、2021年1から2月にはAIオンデマンド交通サービスの実証事業を予定するなど、AI・IoT等の先端テクノロジーを活用したモビリティサービスの展開にも取り組んでいます。
さいたま市によると美園の定住人口は約1万5000人(2020年8月時点)、埼玉スタジアム観戦者は年間約93万人(2017年時点)で、2025年には定住人口を約1万8000人にする目標を立てています。一方、2021年初頭に着工予定のWoven Cityの初期の定住人口は、トヨタ従業員やプロジェクトの関係者をはじめとする約2000人だと発表されています。美園が先行した新しい街であり、民間企業であるトヨタが一からつくるWoven City構想が、いかに壮大かがわかります。
ビジョンと公民プラス学連携で目指す自動運転バス
美園でも自動運転の実証実験を2018年から毎年行っています。浦和美園駅から開設が予定されている順天堂大学病院、埼玉スタジアム2〇〇2、イオンモール浦和美園などの地域の拠店となる大きな施設へのアクセスに、自動運転バスを活用することを検討するためです。
2020年は11月9日から11月13日にかけて日ごろからコミュニケーションをとっている美園タウンマネジメント、イオンリテール、埼玉高速鉄道、国際興業、そして自動運転やMaaSを専門とする群馬大学、日本信号、ジョルダンが入り実証実験が行われました。
顔認証システム モバイルチケット 運行は国際興業のドライバーが担った(写真:楠田悦子)
実証内容は、群馬大学による自動運転バスの運行、日本信号による信号機と車両の連携とバス乗車時の顔認証システムの活用、ジョルダンによるモバイルチケットの活用などです。
取材を通じて、この自動運転バスの実証実験は、日ごろからのビジョン共有と公民プラス学連携の活動があったから実現したものだと感じます。まちづくりは一夜にしてできません。自動運転の実証実験もただ走らせるだけになってしまう実証では意味がありません。住民、自治体、民間企業あるいは大学などの研究機関がコミュニケーションを取り連携する関係を作り、どのような街にしていくか、日ごろからの醸成がいかに大切であるか美園の事例からわかります。