
SIP-adusでは将来の高度な自動運転の実現に向けて実証実験を行っています。期間は2019年10月から2021年3月末まで、実施エリアは臨海副都心地域、羽田空港地域、羽田空港と臨海副都心等を結ぶ首都高速の3カ所です。本来はオリンピック/パラリンピック直前の2020年7月に、一般の方にも参加していただける大規模な自動運転デモイベントをこの実証実験エリアで行う予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で中止となってしまいました。そこで、さる9月1日に一部メディア向けに現地を取材していただくガイドツアーを開催しました。
一部メディアとしたのは新型コロナウイルス感染防止に注力する観点が主ですが、自動運転の技術はそれなりに専門性が高いこと、伝え方がよくないと「明日にでも完全自動運転が現実のものになる」など誤解を与えてしまいかねないことが懸念されるためでもあります。

プログラムは9時から開始。合同庁舎4号館で葛巻PD(プログラムディレクター)による概要説明を行ったあとに、まずは臨海副都心へ向かいます。この地域では約30の信号(ITS無線路側機)から信号情報が提供され、ダイナミックマップ(高精度3次元地図)と専用の受信機を搭載した実験車両に送られています。実証実験には国内外の自動車メーカー、サプライヤー、大学、ベンチャー企業など29機関が参加。信号情報をどう活用するかは参加者次第。現在市販されているモデルで走行し情報の確度の確認や今後の活用方法を検討する、あるいは様々なセンサーを取り付けたモデルで未来を見据えた実験をするなど多様な活用がなされています。今回は金沢大学がLiDARなどを取り付けたレクサスRXを持ち込み、菅沼直樹教授がデモ走行や説明を行いました。
次に向かうのは首都高速で、ここでは合流支援情報、ETCゲート情報などの提供を行っていますが、今回は送信するアンテナを見ていただくだけなので、首都高速羽田線空港西インターをクルマで通過したのみです。

そして羽田イノベーションシティに向かい、いよいよ自動運転バスの取材および体験です。トヨタの燃料電池バス「SORA」の自動運転バスに乗り込み、羽田第3ターミナル、環状八号線を通る周回コースをまわりました。路面に埋め込まれた磁気マーカーに導かれる自動運転バスは比較的にゆっくりとしたペースで運行されているようにも感じますが、この地域の路線バスの運転手に聞き取り調査をして、同様のペースになるよう考慮しているとのこと。立ったまま乗っていても加速・減速や車線変更、右左折などがスムーズなこと、走行中に乗客が移動するのをカメラで見ていること、遠隔監視が可能なことなど、安心・安全で快適な体験をしていただけたと思います。
また、実証実験期間中は10〜17時にバス専用レーンが設けられ、実際の運用を睨んだものであることも確認していただきました。それでも駐車車両等がいて、仕方なく手動運転でこれを避けるシーンもあり、課題も見えました。
本当はバス停への正着制御が自動運転バスの強み。一般的なドライバーでは停車場から20〜30㎝ほど間隔があき、車椅子利用時には人力でブリッジ等をかける必要があるところ、4〜5㎝まで寄せられる自動運転バスならそのままで車椅子が乗降できるのです。今回は都合によって見学・体験していただけないのが残念でした。
最後は羽田イノベーションシティ内の会議室で葛巻PD、菅沼教授、南方真人・実証実験リーダーへの質疑応答および個別取材で終了です。

モータージャーナリストという職業柄、普段は取材する側ですが、今回はメディアの皆さんをアテンドする側にまわりました。主催はSIP-cafeで移動車のドライバーや新型コロナウイルス対策、広報担当など要所要所はプロフェッショナルの方にお願いしていますが、このようなイベントを初めてタッグを組むチームで運営したわりには、比較的にスムーズに行えたのではないでしょうか。想定していなかった細かなトラブルもありましたが、問題なく対処できました。
社会的受容性を考えると、より広く、多くの人に自動運転の情報を正しく知っていただく必要があり、こういった取材会も規模が大きいほうが好ましいとも思われがちですが、今回は小規模ゆえに、深く理解していただけただろうという手応えがあります。参加いただいたメディアの方々はそれぞれに自動運転への知見もお持ちだったため「他の取材者の質問も無駄がなくていい」「ちょうど聞きたかったことを他の取材者が上手に質問してくれた」という感想が聞かれたからです。私も取材する側のときは、こういった気持ちになることがあります。逆に、大規模な取材会では取材者が多すぎて質問が思うようにできず、また他の質問が自分にはわかりきっていることだったりするとたいへんにもどかしい。せっかく来たのに得るものはほとんどなかったと残念な思いをすることが少なくないのです。
まずは、正確かつ深い理解をお持ちのオピニオンリーダーを形成し、そこから広く発信していただくのが広報活動の適正な手法であり、それこそが社会的受容性に繋がっていくのだと確信した次第です。
燃料電池バスSORAベースの実験車両
SORAの現行モデルは路車間通信システム(DSSS)や、通信利用型レーダークルーズコ ントロール、さらに車群認識機能、電波型PTPS(車群対応機能付)などを標準装備して おり、安全かつ正確な運行を可能にするポテンシャルを秘めています。そこにSIP自動運転の取り組みの一環として整備されたインフラを活用することで、SORAの先進性、可能性は広がっています。実証実験用に3台が製作されました。
レクサスRXベースの実験車両
産学官連携した取り組みも東京臨海部実証実験の特徴。金沢大学は臨海副都心部などで信号協調やGNSSによる自己位置情報の検証などを行っています。カメラ、LiDAR、ミリ波レーダーを装備したレクサスRXで走行し、日夜さまざまな条件下でデータを収集をして いる。こうしたアカデミアの知見を生かすのもSIP自動運転の取り組みのひとつです。