自動運転の社会実装に必要な消費者の関与=“WHAT”の視点

現在、全国各地で自動運転の実証実験が実施され、技術的な検証や消費者ニーズの模索が行われていると同時に、道路運送車両法や道路交通法が改正されるなど、自動運転の実用化に向けた制度整備も進められている。

一方で、利用者である消費者自身の意識・関心と理解がそれらに伴っていない点が課題とされる。筆者の過去の調査(第一生命経済研究所「自動車・自動運転に関する意識調査」2018)をみても、自動運転に対する消費者の理解度は低く、関心はいまひとつ。「自動運転とは何か」「それが自分たちに何をもたらすのか」という、“WHAT”の視点がそもそも消費者にないという実態が背景にあるのだろう。

自動運転の社会的意義=“WHY”の視点

では、なぜ今、自動運転なのか。

今日の日本は、人口減少や少子高齢化、一人暮らし世帯の増加、都市部への人口集中と地方の過疎化、地域社会のつながりの希薄化といった、様々な社会課題を抱えている。モビリティは地域の「血管」だ。人やモノが円滑に移動することでコミュニティは活性化するので、これらの社会課題にモビリティが寄与できる部分は大きい。

自動運転の社会実装に向けた環境整備においては、具体的な効果として、道路交通の安全性向上と交通事故の削減、交通渋滞の緩和、環境負荷低減、タクシーや物流業界等におけるドライバー不足の解消、多様な移動手段の創出などが想定されている。とくに、運転免許返納後の高齢者の移動手段としての自動運転技術の活用に対し、社会的な関心は高い。

自家用車(オーナーカー)の運転支援機能を高めて安全性を向上させ、「運転寿命」(運転できる期間)を延伸したり、自動運転機能を搭載したバス路線を充実させたりすることで自家用車に頼らなくても日常生活の移動手段を確保できるようにするなど、移動弱者のモビリティを確保することは、健康寿命の延伸や自立的な生活の継続、QOL(生活の質)の維持・向上の観点からも非常に重要といえる。

こうした自動運転の社会的意義、すなわち“WHY”が消費者に十分に理解されていない点が、社会的受容性の醸成における課題のひとつといえる。

どう社会的受容性を醸成するか=“HOW”の視点

ではどうすれば自動運転の社会的受容性は醸成されるのか。

自動運転の認知度が上がれば社会的受容性も必ず高まるということではない。自動運転について「理解していないので非受容」の人が、情報提供やコミュニケーションによって「理解した上で受容」する可能性は十分にある。一方で「理解した上で非受容」との立場をとる人もいるだろう。また、「理解していないけど受容」していた人、つまり「なんとなく自動運転は必要」と考えていた人が、自動運転の実情や課題・限界を理解することによって非受容に転じることも想定される。交通環境は多様な人々によって形成される。よって自動運転については、「理解した上で非受容」の人と共に「どうしたらうまく活用できるのか」、すなわち“HOW”について、協調・連携しながら課題解決に向けた取り組みを講じる必要がある。

このように、自動運転の社会的受容性醸成においては、自動運転に肯定的な見解を持つ人・否定的な見解を持つ人を含め、消費者を巻き込んだ、様々な観点からの議論が重要だ。自動運転のメリットや限界・課題、地域のモビリティニーズや特性について、自治体や事業者から消費者に対する一方的な情報提供ではなく、双方向的なコミュニケーションによるやりとりを通じ、互いの理解を深めていく必要がある。

【参考レポート】
「自動運転の社会受容性醸成に向けて― 地方のモビリティ創出に向けた課題と考察 ―」
(株)第一生命経済研究所ホームページにて掲載中
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2019/rp1910.pdf