フライトドクターとフライトナースを乗せ、いち早く救急現場へ向かうドクターヘリ

医師と看護師を乗せて飛ぶドクターヘリ。すでに全国44道府県で53機が運用されている。導入当初は早い救急車と誤解されたこともあるが、ドクターヘリの一番の利点は医師による治療を早く始められること。医師が病院で救急車の到着を待つのではなく患者の元に向かうことで、一刻を争う傷病者に対応でき、生存率を上げられることはもちろん、後遺障害の軽減にも貢献している。

交通事故では、医師の現場到着がさらに必要になることが多い。車内に閉じ込められるケースがあるからだ。医師が現場に行くことができれば、鎮痛剤を投与することも可能で、救助隊は動きやすくなる。また、重篤な状態で早く車外に出したいのに、ほんの少し皮膚がひっかかっているために救助できないケースも、医師がいればメスで皮膚をちょっと切ることも可能だ(医師免許のない人が行うと傷害罪に当たる)。

救急自動通報システム「D-Call Net」の拡大に期待

医師をドクターヘリで、現場にさらに早く連れていくためにはどうすればいいのか。解決策のひとつがD-Call Netだ。

ランデブーポイントに到着したドクターヘリは、傷病者を乗せてきた救急車と合流。フライトドクターは救急車のなかで初期治療を開始するなど、連携を図る

車両が衝突してエアバッグが開くときは、搭載されているECUが衝突した方向、強さ、シートベルトの着用有無、多重衝突の有無などの情報を一瞬で計算する。このデータを車両から自動的に送信して救急車の要請につないでいるのが、現在、標準装備化が進んでいる日本緊急通報サービス(HELPNET)などの接続機関だ。これをさらに活用するのがD-Call Netである。

D-Call Netでは、過去の事故280万件から死亡重症確率推定アルゴリズムを確立させ(JIS規格で制定)、どのくらいの衝撃がかかると重症事故かを推測できる。衝撃の強さから判断して医師を現場に向かわせたほうがいいとなれば、HELPNETのような接続機関と同時に、消防本部指令室とドクターヘリ基地病院に連絡がいくようになっている。

現在、ドクターヘリは消防からの要請でしか出動ができないため、あくまでも消防指令室からの連絡を受けて初めて離陸することができるものの、こうして事故発生とほぼ同じタイミングでドクターヘリ基地病院のスタッフが知ることができれば、離陸準備を進めておける。

とくにドクターヘリの基地病院から離れた場所で発生した事故であれば、さすがのドクターヘリといえども、何分もの時間がかかる。この時間短縮は大きい。また、夜の山道などで単独事故を起こせば119番通報をしてくれる人はいない。何年か前に、道路から崖下に転落して1週間後に発見されたケースなども、もしもD-Call Netがあれば違う結果になっていた可能性が高い。

現在、ドクターヘリは夜間や低く雲がたれこめた雨の日、強風の日などは飛ぶことができない。そのため、群馬県や埼玉県などでは、D-Call Netと専用のドクターカーや救急車を活用して、医師と看護師が同乗して現場に向かう対応を試みている。

そして今、このD-Call Netをさらに活用できないかという動きが出始めている。D-Call Netでは前述したとおり、重症事故が発生すると同時に発生場所のデータも送られてくる。地図上に、ほぼピンポイントに映し出されるのだ。

自動運転では、自車のセンサーで情報を集めるだけでなく、まわりの車両や道路から提供される情報も活用したほうが安全に走行できるため、そうした研究も続けられている。例えばD-Call Netで得られた事故発生情報を、すぐさま近隣を走行中の自動運転車両に伝えることができれば、二次被害を防ぐ可能性を高めることができる。もっともこれは、自動運転に限ったことではなく、現在、販売されているクルマにも活用してほしい技術だといえる。

精度の高い情報は、ひとつでも多いほうがいい。情報がつながるコネクテッド技術は、さまざまな場面で活用が模索されている。

写真協力:前橋赤十字病院、前橋市消防局、朝日航洋