車載データは嘘をつかない

あおり運転がクローズアップされ、自分の運転の正当化を証明するためにドライブレコーダーの装着が当たり前になってきた。事故の際にはドライブレコーダーがその様子を記録してくれるので、事故分析に役に立つことも多い。しかし最近のほとんどの乗用車にはEDR(イベント・データ・レコーダー)が備わっており、事故の際には多数の項目が記録され、事故解析に非常に役に立つ正確なデータを読み出せることを知る人は少ない。

飛行機のフライトレコーダーは離陸から着陸までのすべてを記録しているが、クルマに装備されているEDRは事故(イベント)の5秒前から0.3秒後までの間の詳細なデータを記録する。この短い時間だけでも正しい事故解析のために十分な情報がある。

衝突時のスピードメーター表示の車速、ΔV(デルタブイ)で表す衝撃の強さ、アクセル開度、ブレーキON/OFF、ブレーキ液圧、シートベルト装着、エアバッグ展開時間、エンジン回転数、車体ロール角、ハンドル角、ABSの作動、スタビリティコントロールの作動、多重クラッシュの場合の何回目のデータか……など多岐にわたる。また衝突までの5秒の間の変化も含めて記録されているのがEDRである。

さらに最近自動運転が具体的になってきたことにより法制化されたものがある。「自動運転中」だったのか、「ドライバーが運転していた」のかを明確に記録することが義務化されたのだ。

日本ではCDRアナリストが足りていない

ボッシュのCDRはEDRから運転状況記録を読み取り、レポート化を可能にするツールで、車両の速度、ブレーキ操作、操舵角など最大60種の情報を時系列で記録。透明性をもった事故原因の考察に欠かせません

こうしたEDRの記録を読み出すのがCDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)という機器である。公平で透明性がある中立な立場で正確にデータを読み出し作業を行うにはライセンスが必要で、認定のCDRアナリストにならなければならない。BOSCHのCDR機器を扱うためにはBOSCH認定CDRアナリスト向けシステムトレーニングを4日間受講し、CDRアナリストトレーニングを5日間受講する。2週に渡るトレーニングの最後の日に筆記試験があり、100点中70点以上で合格すれば、BOSCH認定CDRアナリストになれる。

アメリカでは2012年9月に法制化され、すべてのクルマがEDRに記録してあるデータをCDRで読み出しできなくてはならなくなった。これは事故を正確なデータから解析するためだ。カーメーカーはEDRのデータの信号をオープンにすることにより、どこのCDR機器でも読み出すことができるが、そのほとんどはBOSCHのCDRである。

事故後でも電源が通じているならOBD2のソケットにCDR機器つなげ、さらにPCにつなげることで読み出すことができる。激しい衝突で電源喪失している場合は、クルマのセンタートンネル付近にあるACM(エアバッグ・コントロール・モジュール)を外し、それを確実に固定したあとに電源をつなげて、CDR、PCをつないでデータを読み出すことができる。

PCに読み出されるデータはすべて英語である。これは世界共通だ。最新のクルマはたくさんの項目が記録されているのでそのデータはA4で数百ページにもおよぶことがある。

CDRアナリストはこのデータを解析し、裁判でも使えるレポートを書くことが仕事になる。

ドラレコとの大きな違いは、音と映像がない点だ。逆にいえば、それ以外のデータは精度の高いものがたくさん残っている。

例えば多重クラッシュの場合、どの順番でぶつかったのかもわかる。壊れている箇所がA車は後部、B車は前後、C車は前部だとすると、B車のデータをCDRで読み出すことにより、B車がブレーキをかけて減速中にC車が追突し、その勢いでB車が加速したことによりA車にぶつかった。B車はC車に追突されなかったらA車にはぶつからなかったことを証明することもできる。それぞれの衝突直前の接近スピード、衝突したことによるスピード変化などもわかる。

こうして事故の詳細がわかることにより、いまアメリカでは保険のアジャスターと言われている職種はなくなり、CDRアナリストに代わっている。BOSCH認定のCDRアナリストはアメリカでは5000人ほどいるが日本ではまだ150人程度(2020年7月現在)。ちなみに筆者は2019年9月に合格し、日本のBOSCH認定CDRアナリスト83番目に登録されている。

ボッシュは2017年3月から日本でCDRアナリストトレーニングを導入。大手損保各社、自動車メーカー各社、司法機関、研究機関がCDR/EDRの必要性に注目しています。ボッシュ認定CDRアナリストに関する問い合わせは、komodakiyoshi@driving-academy.co.jp でも受け付けています

日本でEDRの記録の読み取りができるようにする法制化の話も進んでいる。トヨタ、三菱、スバル、一部の輸入車はすでに対応しているが、法案が通れば2021年の秋か2022年の春頃までに義務化され、全車に広がることが期待される。そうなるとCDRアナリストの需要は増えるので、日本でももっとたくさんのCDRアナリストが必要になる。

CDRはドライブレコーダーと組み合わせることによって、より正確な事故の解明につながると思われる。