
2020年4月1日に道路交通法と道路運送車両法の改正が施行され、日本では法律上レベル3の自動車を市販できるようになりました。
ただ、以前から自動運転の問題に興味を持っていた人のなかには、「あれ? レベル3って条約で許されてなかったんじゃないの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。その疑問にお答えしたいと思います。
1 ふたつの道路交通条約と国連の会議
運転者の義務等に関しては、ウィーン道路交通条約とジュネーブ道路交通条約というふたつの条約があります。日本はこのうちジュネーブ条約だけ批准しています。
ウィーン道路交通条約とジュネーブ道路交通条約に関する議論は、国連のWP1(道路交通安全作業部会)という会議体でなされています。
ウィーン道路交通条約にもジュネーブ道路交通条約にも、「運転者は、つねに車両を適正に操縦しなければならない」という趣旨の条文があります。
これらの条約ができた当時は、「認知・予測・判断・操作」を行うのは人間の運転者であって、システムがこれを行うことはまったく想定されていませんでした。
ですから、その当時の常識を前提として文字どおり解釈するならば、これらの条約は人間の運転者が自らハンドル、アクセル、ブレーキ等の装置を操作することを義務付けており、レベル3以上の自動運転は条約上許されないということになります。
2 ふたつの条約の改正のズレ
このような理解を前提として、レベル3以上の自動運転を導入していくため2014年にウィーン道路交通条約について、2015年にジュネーブ道路交通条約について、一定の条件を満たすレベル3以上の自動運転車を許容する趣旨の条文を追加する改正案の採択がされました。
日本が批准していないウィーン道路交通条約については2016年に条約が施行されました。
これを受けてドイツでは、翌2017年に道路交通法についてレベル3を許容する改正を行っています。
ところが、日本が批准しているジュネーブ道路交通条約については改正案の採択はされたものの、批准国から十分な賛成票が集まらず条約の改正を施行することができないことになってしまいました。
このように、ふたつの条約の間でズレが生じて、一時期膠着状態に陥ってしまいました。
3 柔軟な解釈
その後、このような膠着状態を打破するため、WP1の議論のなかで、現行の条約を改正しなくても条約を柔軟に解釈していくことでレベル3以上の自動運転を認めることが可能ではないかということが示唆されるようになりました。
そして、議論が重ねられるうちに、2017年頃からレベル3以上の自動車であっても緊急時や限界領域から出るときに運転を引き継ぐ者がいるならば、ウィーン道路交通条約だけでなく、ジュネーブ道路交通条約にも反することはないという共通認識が形成されていきました。
このような国連での議論の状況を受けて、日本では2019年に道路交通法と道路運送車両法の改正が行われ、2020年4月1日にこれらの法律が施行され、法律上、レベル3の自動運転車の市販化が可能になりました。