2020 年 4 月 1 日に自動運行装置の新しい保安基準等が施行されました。わかりやすく言うと、自動運転レベル 3 に対しての法改正ですが、国土交通省は「自動運転とは言わずに自動運行装置」と書いているところが実はミソなのですが、少しわかりにくいので、ここでは自動運転と書いておきます。

前方の監視義務の有無が境界線

日産のCMがハンズオフを強く印象づけた。高速道路での手放しを可能にしたが、ドライバーは前方をしっかり監視する義務がある

私がSIPの委員となった2014年から、時間をかけて自動運転の推進会議に出席してきましたが、官民ITSロードマップで規定しているレベル3は2020年に実用化を目指してきました。数字のレベルでいうと、現在実用化しているレベル2の次のステップがレベル3ですが、実は技術的には大きな違いがあります。その技術を克服しないとレベル3は実現できないわけです。レベル2はハンドルから手を離しても道交法で罰せられることはありません。手を離しても、周囲をしっかりと認識監視し、ドライバーの責任で運転しているからです。

 レベル3は部分的であっても、システム(コンピューターが認知判断操作を行う=以下システム)が運転することで、ドライバーは前方等の監視義務から開放されます。手と目と足が自由になったドライバーは、なんでもできるわけではありません。自動で運転できる条件から外れると、システムはドライバーに運転を代わってもらうべく要請されます。その時に、速やかにハンドルを握り安全運転できるようにする義務があるわけです。

 このように従来の基準や技術はすべてドライバーが安全運転するという前提で決まっていましたが、レベル3からは別世界に足を踏み入れます。そこでどんな技術が必要となるのか、考えてみましょう。

レベル3に必要な技術とは

BMW Personal CoPilotも、近未来の自動運転を見据えている

 まず大切なことは認知判断をシステムが行うので、カメラやレーダー、あるいはライダー(光学的スキャンで周囲を検知)が人間の目の代行をします。こうしたセンサーの性能がまず重要となってきます。速度が速いと遠くまで見るセンサーが必要となり、現状では高額ですが、時速60kmくらいまでならもう少し安価になります。つまり、速度という条件の設定次第で、センサーのコストが決まってきます。各自動車がどんな速度までの自動運転(レベル3)を目指しているのか、そこは各社の競争領域となるわけです。

 センサーで物体を捉えても、その物体がなんなのか、どんなリスクがあるのかを判断するコンピュータが必要となります。そこには人間の記憶と同じく、データベースが必要となります。例えばセンサーで捉えた物体(画像)が新聞紙なのか、あるいは木の箱なのか、その判断によって取るべき行動が変わってきます。

 ここまでは理解しやすい技術論ですが、新たな課題はシステムを二重系にすることです。すでに航空機などで実用化しているような、バックアップシステムが不可欠となります。たとえは自動操舵(ハンドルの自動化)で、操舵している最中に電源を喪失したらどうなるのか。そのままハンドルを切り続けるのか、あるいは元の位置に戻るべきなのか。いずれにしても、電源は二重系にする必要があるわけですね。

 また、ドライバーがシステムからの要請で運転することができないとき、そのクルマはシステムも人も運転しない暴走状態になりますから、ドライバーを監視するシステムも不可欠です。このドライバーをモニタリングするシステムは、レベル1や2でも有効性があります。例えば、レベル2で運転中に急な疾患に襲われ、気を失うことはレアケースでも現実に起きています。もし、ドライバーモニタリングシステムが機能していれば、自動でブレーキをかけて、停止させることが技術的には可能です。

 このようにレベル3だけではなく、クルマが高度化し知能化すると、いろいろな課題を克服することができそうです。SIP自動運転プロジェクトでは、インフラと協調するシステムを実現するために、すでに社会実験を始めています。