2015年9月、国連の全加盟国(193カ国)は、21世紀の人類と地球の共通ビジョンとして、持続可能な開発目標SDGs(Sustainable Development Goals )を決議した。気候変動に加えて、食料・栄養、医療・健康、貧困・格差、教育、水・衛生、エネルギー、雇用、インフラ、都市・人間居住、生産と消費形態など17の目標である。21世紀が直面するこうした深刻な目標に対して先進国と途上国が一致して、世界、国、地方レベルでゴール達成に向けて、あらゆる知識、手段、リソースを動員して取り組み、「我々の世界を変革(Transforming our world)しよう」という壮大な企てである。産学官市民の各セクターが既に行動を起こしており、科学技術イノベーションはその推進力として大きな期待がかかる。世界的に急増する「ESG投資」(環境・社会・統治の要素を考慮した企業等への投資)がこれに拍車をかけている。

「馬車をいくら連続的に加えても、けっして鉄道をうることはできない」。100年前に経済学者シュンペーターが提唱した「イノベーション」(新結合)という概念をわかりやすく表現した一文である。これは、21世紀の今「100年に一度の大変革」に直面している自動車技術と自動車産業の今後の方向の核心をつく言葉ではないだろうか。シュンペーターのイノベーションは、多様なニーズ、ものや力、情報を非連続的に結合することによって、新しい価値を生み出し新しい市場や需要を開拓し課題を解決しようというものである。

SDGsの国連決議を詳しく読むと、自動運転に直接関係する記述として、自動車事故の半減(現在世界で年間およそ130万人、日本で3500人)と、地域における交通アクセスの改善が挙げられる。さらに「新結合」という視点から、自動運転は、医療や食料、エネルギーや環境などSDGsの目標との多様な連関が考えられる。これは、今注目される「MaaS(Mobility as a Service)」と「CASE(Connect,Autonomous,Share,Electric)」に繋がる。自動運転は陸上の自動車だけには限らない。ドローン、空飛ぶタクシー、自動航行船など陸海空の自動システムを繋いだパッケージ・サービスとして考えたほうが発展性があるだろう。

ここで自動運転とSDGs11番の目標を詳しく見てみよう。「包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住の実現」。今注目される「スマートシティ」である。都市や人間居住の空間は、様々なシステムの結合から成り立っている。食料、水、エネルギー、医療、環境、防災、インフラ、教育、貧困、廃棄物、行政サービス、警察・司法など、SDGsの17の目標のすべてに関係するといっていい。自動運転は、AIとビッグデータのデジタル技術との結合によって、こうした個々の制度やシステムの縦割りを越えて、社会の新しいデザインと多様なサービスを実現することが期待できる。「20世紀の自動車」という枠を大きく超える可能性を秘めている。

SIP自動運転プロジェクト第2期は、「システム開発とサービスの拡張」をテーマに掲げている。「サービスの拡張」は、地域のニーズや環境等を踏まえて、様々な移動手段を開発し結合して多様なサービスを社会に実装することであり、社会の受容性と市民との共生を重視する。異なる地域での自動運転の実証実験のデータや経験の共有、インパクト分析が重要で、蓄積された知識や技術システム、サービスをパッケージ化して途上国への展開も期待できる。SDGsが強調するローカルとグローバルの橋渡しである。将来の可能性の束である自動運転とSDGsの繋がりにもっと関心が高まることを期待したい。